ゆるされるのなら、さいごまで(瑞加賀/赤翔要素有)
最近、ひらがなの発音が、うまくできなくなってきた。
ギイギイと軋む声帯。表情筋。もとよりさほど起伏があるものではなかったけれど、発言をするたびに、ささやきを重ねるたびに、痛々しい存在を見る瞳で、わたしを捉えるのは、勘弁して欲しい。
わたしは、最後の最期まで、あなたの前で、あなたの隣で、空母として、立っていたい、だけなのだから。
「そう、ですか」
自室、だった部屋で。お互い正座をして。
重たい告白をしたわたしを前にして、赤城さんは。
いやになるくらいあっさりとした一言をわたしに告げただけで。
それが赤城さんとの最後の、(このままいけば、最期の)会話となることすら、まるで頓着しないという表情と態度で。
わたしを、空母加賀という存在を見限っておきながら、ねぎらうことも、笑いかけることもしてはくれなかった。
(それを得たら得たで、舌を噛みちぎって死んでしまいたくなることを加味したとしても、今でも、あのときを思い出すたびに鉛より重い液体がわたしの胃に落ちる。)
「……お世話に、なりました」
そういって頭を垂れた後輩は、わたしの代わりではなく、わたしでは立ち得なかった場所から、これからの赤城さんを支えてくれるはずの存在となっていた。
いつだって羨んでいた。悔やまなかったなんて、とんでもない。
悔し涙は、決まって彼女の妹が、そっと拭ってくれた。……たまに、拭い損ねたのか意図的に無視したのか、わからない真似をしてはわたしを困惑させた。
あとを継いだもの、が、隣に並び立つなんて、ただの悪夢だ。
彼女の妹に、……恋人の瑞鶴に、そう毒づいた回数は、十や二十ではきかない。
「いやですよ、ゆるしませんから」
そういって目を炯々と煌めかせて、わたしに強い力をかけた瑞鶴は、いつからか、わたしの上で情けなく涙をこぼす小娘になってしまった。
しとしとと降り続く雨。視界が曇っても、熱く燃える感触と共に四肢の何処かが、吹き飛んでも。
いつからか、発着艦が困難になるどころか、呼び声に抵抗さえしなければかつてないほどの力を手に入れてしまったわたしの髪の色が、だんだん、彼女の姉に近づいてゆくのを、とめることなど、呼び声に応えるかどうかに関わりなく、できるはずもなかった。
「……っどうして、…加賀さん、……なんですか、」
そう言って泣いてくれるあなたがいるなら。
後悔も未練もたくさんあるけれど、納得できない、ほどではないの。
「……加賀、もういいのか。」
「……エエ。」
たとえ、海で死ねなくても。
この戦争の行方を、おそらくいまと地続きである正常な思考では、知ることができなくとも。
さよなら。
ずいかく、あいしてるわ。
口にするさいごのことばは、きれいなもので、わたしの自己満足のかたまりで、いたかったから。
わたしはいまから無言を貫く誓いを立てる。
海に沈むよりひどい目に遭うと知っていながら、あなたに対してでも赤城さんに対してでも、ましてや、神に対してでもなく、
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