(待ってた、ずっと)(長陸奥)
……待ちくたびれたわ
そう言って魅力的に笑う彼女の名前を、自分は、生まれる前から知っていた。
*
……それは悪かった。
待たせたな。
私にそう言って、まっすぐに歩み寄る姿に、思い切り抱きついてしまいたくなるのを懸命にこらえる。
建造されて、ドッグの中で立ち上がったばかりの艦娘は、立ったり歩いたりが、まだ慣れていないせいで不安定なことが多い。
あなたに尻餅をつかせるとか、そんな、カッコ悪いことをさせるわけにいかないじゃない。
その足取りを見ると、そんな心配もただの杞憂でありそうだけど。
でも。だって。
ただいま、陸奥
……おかえりなさい
再開できたら、前の身体じゃできなかったこと、そしてあなたならきっと何も言わなくてもしてくれるに違いないこと、
つまり、まずは、思いっきり抱きしめてもらうんだって、随分前から決めてたんだもの。
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「ちゅーしよ。」(鈴熊)
……待ちくたびれましたわ、って、言ってさしあげる、つもりでしたのに。
そんな顔で、そんな声で、こんなこと言うから。
生まれてはじめての言葉を紡ぐ前に、培養液でまだほんのり濡れた唇を、あやうく別のことに使ってしまうところだった。
*
よ、元気だった?
元気といいますか、……もう、
鈴谷ったら。
ふてくされた声音も、薄茶の髪も、瞳も、それからまだあんまりはっきりとは解らない身体のあちこちも、
うん、ばっちりあたし好みだ。神様ありがとう。熊野にもっかい、こんな形で巡り合わせてくれて。
…わ、
あ、……もうっ、
起き上がったら熊野がさっきよりずっと近くなって、(まあ当たり前だ、そういう風に動いたんだし、)おお、こんな風に近づけるんだから、今度のこの生まれ方はやっぱり悪くない。
慌てたように手を差し伸べてきた熊野のそれを、両手で包み込んだら彼女の頬はあっという間に朱に染まった。んー、唇へのちゅーは、流石に同意なしじゃマズいかなー、
どんどん、外から打ち付けられた扉の音に、さっきよりもずっと狼狽した表情で飛び退くように離れる熊野の手は、だけどあたしが握ったままだったから、もちろんまともな距離なんか取らせてはあげずに済んだ。
抱きしめるのは後でいい?
だっ……
……鈴谷はそういう方なのですね。
んえ?
……悪くは、ありませんが。
そっかぁ
じゃあ、キスしていいかどうかは、抱きしめた時に聞くことにしよっかな。
ここはどうやら、随分賑やかな艦隊みたいだし、ね。
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XX13.08.15 建造にて陸奥、着任。初戦艦。
XX13.10.01 建造にて長門、着任。
XX13.10.27 建造にて、熊野着任。
XX13.10.28 建造にて、鈴谷着任。
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