旋空する朝 (如月と皐月 AL作戦ネタ)






いたい、痛い。
とうつう、というらしい痛みが、消えてくれない。







っ!!


揺り動かされて目覚めた心地は、最悪だった。


だいじょぶ?

……そう見える?


毒づきはいつもの声色だった。大丈夫、震えて無い。
大丈夫、まだ彼女に心配されきるほど、落ちては、いない。
なんのことはない。いつもの痛みだ。
二の腕を切断されるような痛みはだんだん鈍くなって――その代わりにふつふつと沸き起こる、えづきそうな腹痛。
流石に薬を飲まなければならないかもしれない。幻肢痛に近しいこの苦しみは、ごく稀にしか生じない症状であり、いよいよ悪化するようならうつわのすげ替えすら検討されかねない、厄介な代物でもあった。


…生理かしら

笑えないじょーだんはいーから。
支度して、如月。

……自主練習にはつきあいませんわよ

そーじゃなくて。
出撃。


めーれい。
私の布団間際で仁王立ちしてる皐月は、ごく真面目な顔をしていたから、それが笑えない冗談ではないことは最悪の目覚めを迎えた起き抜けの頭でも否応なしに判断ができた。


……今度はいったいどこの潜水ですの

潜水艦じゃないって。

……は?


とうとうこの近辺にもはぐれ潜艦が出るようになったのか、世も末だ、侵入経路が判明したらとっとと機雷を埋め込んでしまえ――
その先、侵入してくる掃海艦を自分たちが迎え撃つという非常に不毛な連鎖までを頭に浮かばせていたところでシュミレーションそのものをばっさり否定してみせた皐月はやはり真面目な顔で、私の腕を思い切り引っ張った。
……やめてよ、そこは、いた……かったの。さっきまで。……ずっと。


第一艦隊に緊急配置だってさ

……はやく言いなさいよ!

え、だって急ぐけど急がないっていうか、出撃は昼すぎだし――

なんで昼すぎなんですの!?

それは艦隊のみんなに聞いて来て、


じゃあボクは朝練だから。
思い切り叫んだ私をからかうこともしないから。珍しい反応ばかりのこの妹に、いやでも現実を……もうそれは良い、


あ、そだ。如月、

……なにかしら?


睦月型がまとめて寝起きしている和室の框を半分だけ飛び越えた形で振り向いた、皐月は黄色の髪を朝日に遠慮なしにきらめかせながら。


気をつけてね。

え?

第一艦隊。


引きずられないでよ。
じゃーね。と、こちらの返事を確認することなくあっさり視界から消えた皐月は、……部屋の扉も閉めないまま。
入光がもろに当たることになった文月や、部屋の奥で寝ていたはずの望月までが、さすがに眠そうな声をあげながら目覚めの声をあげたのは、だから、皐月が悪い。
有り難いお言葉の意味はさっぱりわからなかったけれど、行ってらっしゃいなんて今は誰にも言われたくなかったから。
彼女たちが本格的に起きてしまう前に部屋を出てしまうことにした。
敷きっぱなしの布団は文句を言いながらも睦月が片付けてくれるだろう。きっと。





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XX14.8.10
 AL作戦開始。
 偵察部隊:青葉(75)古鷹(118)霧島(75)如月(72)千歳(51)千代田(51)










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