光ばかりの午後
(如月と古鷹 AL作戦ネタ)






……ああ、これか。


随分気味の悪い進化を遂げている、見慣れない駆逐艦の腹部に魚雷を命中させて、思う。
皐月がくれた、とらえどころのないアドバイスを、まざまざと実感したのは3回目の途中撤退が叫ばれる直前のことだった。
第一艦隊の一員として、練度も装備も一線級のひとたちとともに戦うのは、あまりにも――やりやすすぎた。


……わるい、


木曾さんが謝っている声が遠くで聞こえる。
それに対する千歳さんの応えはここまでは届かない。
今日も随分敵地寄りまで踏み込んでしまった。未だ制圧していない、海図も定まらない海域で戦うリスクをおかさなければならないほど、追い詰められていたはずは無かった……のだが。
噛み合わない。いや、噛み合いすぎてしまうが故の、弊害だと思うし、多分それは間違ってはいない。


艦隊、帰投します!!


青葉さんの叫び声に、できる限りの声を張り上げて答える。
今日の自分はまだ被弾すらしていない。が、――終わりだと思うと途端、疲労が鉛のように押し寄せてくるのがわかった。
だめだ。やっぱり、うまくコントロールできていない。
木曾さんだって、組む相手がいつもの加賀さんや翔鶴さん――正規空母の皆さんなら、今日の戦い方はまったく間違ってはいないのに。
時折一緒に演習をしたとき、彼女がした旋回の仕方を思い出して、……軽空母じゃあれは無理だ、と、改めて感じてしまった。まず絶対的に、艦載機が足りない。制御の精度も、たぶん、
自分が分かるのだから、そんなこと、当事者には余計にわかっていることだろう。だから私から報告するようなことはしないし――私も、普段ならこなせていたカバーリングが、うまく出来なかったどころか逆に古鷹さんに庇わせてしまったことが、ずしり、肩にも足にも重くのしかかっている。


おつかれさま

……はい。
すみません。

謝らないで。
まだ、これからなんだから


片腕分の艤装をまるごと吹き飛ばしながら、平然と青葉さんの斜め後ろを滑るように走っている古鷹さんは、私の方を向かないままでほの苦く笑った。
なんとかひとつの艦隊であろうと奮闘した結果、結果としてついてきた戦果を持ち帰るような、いつもの、ぬるい戦闘などひとつたりともありはしない連戦のあととは、まったく思えないかのような余裕ぶりに、みっともなく胸が焦げ、そしてそれと同じだけ震える、私にも一応はある、艦娘としての誇らしさのような何か。
いやな共鳴をし出す前に止めてくれるから、この人は、ずっと前線に立ち続けていられるのかもしれない。そんなことを思わず考えずにはいられない程に、絶妙のタイミングで紡がれる、続きというにはおかしな会話の糸口。


……そろそろ限界かもなあ

…え?

ああ、……たぶん、


偵察部隊の役目はもうじきおしまいってところかなって。
しれっと言ってのけた古鷹さんは、そういえば秘書艦の経歴は、随分と長かったように記憶している。
最近は表立って提督の隣に控えるよりは、もっと、鳳翔さんや夕張さんのように――陰ながら泊地の居心地をよくする役割に回ることが多かったから、あまり実感することはなかったけれど。
頭が回らなければあの提督の秘書艦にはなれない。


もうちょっと、青葉と一緒に出撃したかったんだけどね


みんなには内緒ね。
轟々と、風や波を切る音が聞こえる中での会話なのだから、艦隊全員にとは言わずとも、きっと何人かには聞かれているだろう。その中に青葉さんが含まれているかどうかは、先頭を行く、うす紫の髪をもつひとをみれば一目瞭然だ。
よし、と、たぶん口にして――前述の音が邪魔をして、その言葉そのものは今度こそ聞こえてこなかった――旗艦である青葉さんのもとへまっすぐ駆けていく古鷹さんのようなひとは、私は、どうしたって嫌いになれないので。
秘密は秘密として、持っていてさしあげることにしたのだった。
それは傲慢な自己満足に過ぎないと、もちろん知っては、いたのだけれど。






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XX14.8.10
 AL作戦開始。
 初期部隊:青葉(75)古鷹(118)霧島(75)如月(72)千歳(51)千代田(51)
XX14.8.16
 E-1突破。
 撃破部隊:青葉(77)木曾(123)能代(80)霧島(77)瑞鳳(73)飛鷹(46)










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