熱帯夜
(瑞鶴×加賀)






や、ぁ、……はぁっ、……ぁ、あ、……っ


抱き込んだやわらかな丸みが震える。
ひくり、ひくり、もうだいぶ辛そうで、だけれど弱々しく懇願するにはまだ至らない、到らせない、生ぬるい気温に浸された熱が私たちを包み込んでは頭の判断力を鈍らせる、そんな夜。
右胸と、脇腹からお腹にかけてだけを、ひたすらに、なぞるような、ひっかくような。べたつく汗を塗りこめるだけのような刺激を、私は。さっきから随分と引き伸ばしている。
いつもならぎりぎりまで、声なんか出してやるものか、という勢いで喘ぎも吐息も噛み殺されるのに。

今日の加賀さんは、いつもよりずっと優しい。
その理由を、もちろん私は知っている。


…っあ!
………ん、ぐっ、……


けれどそれを賢しらに言い放つような愚を犯す気は無いし、それ、に、思いを馳せることすら勿体無いとさえ思うぐらい、今の加賀さんは、全力で堪能しなければ勿体無い可愛さだ。
まさぐった手、たどり着いた、なぞった最後の障壁を、そろそろとおしやればひくっと、喉の奥を鳴らす音。
受け入れたいくせに、受け入れたくないと訴える、意地っ張りな加賀さんの葛藤がそのままあらわれ出た呻き声未満のそれを、いつも、本当に心待ちにしているのだと。
告げてしまったらもう二度と聞けなくなってしまうかもしれないから、教えてあげることはきっと無い。
代わりに、今日も。代わりだと言う言い訳をして、加賀さんにあげる、薄い障壁を押し戻してその上から押し付ける、……ひどい刺激。


っ、あぁ!


いつも通り、なのに、悔しそうに、そして同じくらい期待を乗せた喘ぎ声が、私を蕩かす。
仕方がないから、――そう、仕方がないからだ――ショーツの隙間に指を潜り込ませて、今度こそ、けれど残酷なくらいゆるやかに触れてあげれば、……ほら。


んっ!!

かがさん、

ぁ、……ず、……か、



私の方を向こうとしたのだろう、でもその試みは叶えてあげられない。
私、今、ひどい顔してるから。
やわらかくほどけた加賀さんを前にして、ひどいこと、考えてる、から。
彼女のやさしさを、熱を知るようになってから短く切りそろえることを覚えた爪が、加賀さんの胸に埋まった左手のそれが、埋まりきってとうとう、がり、と引っかいたのを、加賀さんの重みで知る。


……かがさん、

ず、か……っ、


その先は言わせない。
今日も、私は、


あ、ぁ……っ


焦らして、出し惜しみして、弱いところを弄んではぎりぎりまで引き伸ばすくせに――いざ彼女が私に懇願をしようとすると途端それを阻もうと動き出す、私は。
彼女の愛情を受け入れることすら怖がっていることを、きっと、加賀さんには、とうに知られている。
だからあなたはきらいなのよ、と、これ以上無い愛のことばを突きつける加賀さんには。ただただやわらかにとろけていく彼女より、ずっと、ずっと。どうにもみっともない姿ばかり、みせているのだから。







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