三日月に誘拐されて







どうして好きなのか?
などという戯れ言を転がせるような時期は、もうとっくに、過ぎ去ってしまった。
彼女では嫌な理由なら、星の数ほどあげられるのに。


…かがさん、

っ、……!


そう、目を閉じてしまうまでは眼前に広がっていた、夜空にきらめく、星よりもまだ多いくらい。


…がまんしなくても。


いーのに。
まだそんなことを言う彼女を、押しやりたくてたまらない腕が、彼女に縋りつき肩甲骨を噛むように爪を刺す。
こんなところではいやだと、さっきも言った。譫言(うわごと)に近い呟きと、懇願と同じ要求が、同じ音色になり出す頃には、もう、私の言葉など彼女にほとんど通じない。
だから、何を言っても構わないだろうと。開き直れる頃には、もう、本当に言いたいことすら口に出せる状態ではなくなってしまっている。
だから。
好きということすらできないのだから。
その理由など、こうなる前に聞かれたって、このあと甘えるように、ねだられたって。
どうせ。今日も、伝えられなどしないのだ。
月のように満ちては欠ける、たったひとつの本当、なんて。






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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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