ゆきばなんて(瑞鶴×加賀)







誰かが消えなくてはならなくて、それがわたしになる可能性はとても高くて、
だけれど戦場以外の場所で消える準備も覚悟も、わたしには、てんでなくて。


……なんのために生まれ直したの、


そう呟くことすらが傲慢だと醒めた眼でこき下ろしてくれた、加賀さんはわたしとちがって準備も覚悟もとっくに決めていた、らしかった。


あなたが思っているほど強くないわ。
でも、あなたを守れないほど、弱くもないの。


そう言って扉の向こうに消えてしまった、加賀さんの表情と靴音がいまも私の頭から離れない。


あなたは何も悪くないんです。
でも、ごめんなさい、ごめんなさい、わたし、
あなたが加賀という存在であるというだけで、あなたの隣にいることに耐えられないんです。


碌でもない鎮守府に救いを求めて、わたしに行きついたのは致し方無いことだろう。
だって、加賀、だ。どうせまた使いつぶされると、きっと誰しもが思っている。
最後まで改装を終えた蒼龍、とか、時折現れては、瞬く間にいなくなってしまう小さな武勲艦たち、とか。もっと小さな海を護る存在も、この頃ひらりちらり、見え隠れしては、質の悪いかくれんぼのように。


絶望をあげるわ。
あの子にはその方が刺さるでしょう。


あんなに愛おしそうな声でそう言われてしまったら、引き下がるしかないじゃない?


ほぼ同時に宣告された2度目の大型改装、わたしには絶対に縁がないと思っていたその報告と引き換えに失った存在を抱えきれなくて噛みついた先で、不自然なほど自然体で微笑っていた赤城さんは、もう、自分のための加賀をとっくの昔に手に入れている。
お揃いの指輪。その癖不揃いの練度。どんな海域にも最近は出ていかないこと、それすらを誇るように笑うこの人がほんとうのことを言っているのか、わたしには、てんでわからない。


……なんのために生まれ直したの、あなたは


今度生まれ直したら聞いてみたい。ぺたりぺたりと未練のような足音を残して、笑顔にも似つかない強張った顔つきでわたしの前から消えてしまったあなたが、ほんとうにわたしがいまのわたしの姿になるまで生きていたのか、対空だか装甲だか、そんな値となってわたしのなかに生きているのか、この鎮守府でうちの瑞鶴と呼ばれることすらないわたしに縋る目の前の加賀にぶつけたくないから、だから、ごめんね、
わたしには、あなたに絶望すらあげられないの。












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