うらおどるまぼろし(瑞鶴×加賀)







さっきから胸のふもと、上の方ばかりを舐めては吸われている。しばらく前まではどこかとろんとした眼をしていたはずの瑞鶴は、次第次第によるのけものらしく端々がとがってくる。
ひとりにしないで、そう叫んでいるようにみえたのは一度や二度ではないけれど。きょうはそうではなかったから理性は早めに手放してしまおうか、そう、思う、ことが既に彼女の本意ではないようで、ぐぅと啼くようにわたしの唇を食べた、勢いでしばらくは血の味がした。


……あま……

…そんな、……わけ、


瑞鶴の左手が私の右手と絡められる。誰もいない小径、そっと弾くように触れてからされる恋人繋ぎは、いまこの場では虚をつかれた瞬間に意図せず彼女の指を折ってしまいそうで、愛しさや気恥ずかしさよりもずっと、恐怖がまさった。
慌てて振りほどこうとしたのに、絡め取られたまま逃げられない。力の籠め方も加減の仕方も忘れてしまった抵抗は、水面を求めてもがく、沈みゆくものの足掻きに似ていた。
まだそこまで溺れきってしまったはずはないのだけれど、ずいかく、あ、…いや、だめ、や、……ぁっ!!


……っぅ、


実際に漏れたのはその吐息だけで、それに安堵したわたしを咎めるかのように、瑞鶴が自由な方の指先を駆使してくる。さっきまで執拗に舐めていたところを鳥肌が立つくらい繊細にこそげとっていった爪の先が、ついに首元に触れて途端、緊張を走らせたわたしのからだを、宥める手つきは優しくてくるしい。きょうは間違っても絞められたりしない。その安堵はどれだけ泣き喘ぎ咽んでも快楽から解放してはくれない未来と引き換えに得たものだ。
覚悟はもうだいぶ前にした。瑞鶴が、わたしにきちんと向かい合って、ことばで伝えてくれたときに。ええ、と頷いたから。


ん、……あっ!!


とうに煮えたぎっている股座を、ふとした拍子に抜けたのはただの空気。瑞鶴がわたしの右足に手をやろうとした身じろぎのせい、意図も手管もありはしないそれはけれどわたしにはただの間隙でしかなくて、思わずにぎりと、さっき懸念した通りに指先に籠められた力。瑞鶴が動きを止めたのが、やはり痛かったのだろうと判じて胸満たす後悔が、ひちりと腹と脳裏を揺らす。


……はな、して、

いやです


そうきょひされることなんてしっていた、だからいわなかったのだけれどいわないままでいることにもういいかげんにたえられなくなってしまった、そんなわたしを瑞鶴は知っているはずで、だからふつりと笑ってまた、わたしに唇を寄せる。


っ―――!!


もうさわられるだけではぜてしまうところまで来ていることにだって気づいていたくせに、まだ夢中になりすぎて彼女の舌を噛んでしまったりしないとわかっているからする所業だと、知っている。全て織り込み済みのこの子の細すぎる脚がわたしの片足を挟み込んで、手でも足でも舌先ですらも絡め取り尽くしている状態で与えられる絶頂は、胸の先も秘豆も膣の中も、寂しいから余計に白い。



あ、ぁ、……あああ、


こえがもうこんなにも遠い。それなのに彼女はまだやわらかく、ひどくやさしく、わたしをなぜる準備をするばかりだ。












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