まずはリビングで(赤城×翔鶴)










ただいま帰りました

……おかえりなさい。


一泊の間が空いたのは貴女のせいだと、余所行きの顔を作りかけていた私は溜息をついた。
小首を傾げて笑ってみせる仕草、仮装の上に何も羽織らないままで自室のドアをわざわざノックする所業。小脇に抱えられていたコートを装飾のように持ち上げてみせるところまでがあざとく計算高い女の演技で、溜息をもうひとつ追加して消し飛ばすには成功しきっているのが腹立たしい。


翔鶴、

はい?


目線だけでキスをねだってみせたのは一瞬だけ、残念ですという顔までを小綺麗に作っておきながら彼女はついと私を通り抜ける。先に帰っていらっしゃっていて嬉しいです。振り返らずに言っただろうから、私も振り向かないままでそう、と返した。


似合いますか?

今朝、もう言ったわ

何度でも聞きたいんです

いいわよ、じゃあ布団の上でね?

……いまからもう、ですか?

その格好のまま食べるのも、いやでしょう?

んー、……そう、ではなく、

……え?


赤々しいものがふっと近づいたと思ったら首元に腕が回り、唇を奪われていた。
舌の出し方、体重のかけ方からして完全にいまからする流れ、そんな性急にこんなところで、……ああ、そういうこと?


……あなたね、

ふふっ、いいでしょう?


あとで赤城さんのお願いも叶えますよと、顔に書いてあるのに折れた素振りをする暇もなく続けられるキスの嵐。音を立てて唾を垂らして、けれどうまいこと自分の衣装は汚さないようにしていて、まあ、お上手ですこと。
仕込んだのは赤城さんでしょう? 浮ついた吐息で答えてくるのが憎い。さっきまで外で覚えてきた手管を使ってきたくせに、私の腕の中では途端、従順な良妻のような態度になる。
塗り替えられるものならどうぞ、という挑発に存分に答えすぎると今夜の予定が台無しになることも分かっていたけれど、久しぶりに無様に許されたい気分だったから私はそのまま彼女の思惑に乗り切ってあげることにした。お約束のものばかりを集めた夕飯はまだすべて冷蔵庫の中にあるから、今晩の何時食べたところで問題ないだろう。










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