あなたの指先







(瑞鶴×加賀)



加賀さん、かわいい

……やめて

いやです。

…やっ、…め、

いや、です。


すり、と寄せてくる頬は冷(ひや)っこい。
彼女のなめらかさを、……わたしの熱を、まざまざと思い知らせてくる抱擁。
幼い声で、稚い仕草で。そのくせ細い指は迷いなくわたしの太腿にたどりついて、
その先を、意地悪く焦らす。
だいすきでたまらないという声で。わたしがいやがることばかりをしでかして、
そしてわたしをどろどろに溶かす。
私の否定が、彼女の、拒絶が、なにであるかさえわからなくなるまで。









(赤城×翔鶴)



唇をなぞられるときの、ささやかなざらつきが好き。
いつも丁寧すぎるくらい丁寧に、手間暇かけて整備している弓の、飛行機の。わずかなとっかかりすら滑らかに均すために傷ついた指先。料理も掃除もしないひとが、戦場で傷つくことすら滅多にないひとが、いっそ誇らしげに肌に乗せている戦う者の証。
赤城さんの手とは、わたしにとってはそういうもので。
けれど、わたしがそれを舐めることをとりわけ好む彼女にとってそれは、
この頃は、わたしの劣情をいとも容易く引き出す材料として最良だというのが一番の評価なのだそうだ。
顔を赤らめたわたしの、裏側から頬をつつく。この上なく愉しそうに、……幸福、そうに。
膝頭で、つま先で、くちびるで。ことばで。与えられるものたちにいよいよ耐え切れなくなったわたしが、
その指先につけてしまう噛み跡が、戦さ場のために拵えたささくれよりも、弓弦が作った胝よりも。
途方もないくらい、大切なのだそうだ。









(青葉×古鷹)



青葉は文字を書くのが、好きなのだという。
誰かの前で話すのではなく、青い画面に打ち込むのでもなく。指でなぞるといろんなことができるらしい小さな機械に、イムヤさんや鈴谷さんのようにまめまめしく保存するのでもなく。
さすがに鉛筆ではないけれど、シャープペンシルやボールペンで、白い紙にさらさらと書きつけていくのが、たまらなく好きなのだそうだ。
(万年筆やガラスペンのような繊細なものは、青葉みたいな横着者には向いてませんよぅ、と言われてしまったから、彼女の記念日にちょっと良い万年筆をプレゼントしよう計画はあえなく没になってしまった。
 代わりにあげた群青の皮染バインダーを、青葉はびっくりするくらい大切に使ってくれている。)
わたしは。
そんなことをいいながら目を輝かせている青葉が、
わたしのあげたバインダーにいつもいっぱいに紙を詰め込んで、はみ出させて、その見た目そっくりの熱量が溢れている中身について、わたしに話してくれる青葉が、
古鷹さんのことは書き出すととまらなくなっちゃうから書かないんです、なんて、真っ赤な顔で言い訳してくれる恋人が、
ペンを持つときよりずっと恐る恐る、高級万年筆も裸足で逃げ出すくらいそっと、わたしを掴むその瞬間が、たまらなく、好き。
(そういえば、バッと離れて、熟れ過ぎなくらい朱に染まった顔を覆い隠すために使われてしまう手にわたしの手と唇で触れてあげるのも、もちろん、とても好き、だけれど。)
(だって、ね、の続きは、青葉にも内緒なんだから、もちろん、あなたにも内緒。)









(木曾×大井)



彼女の掴む、指先を知らない。


っ、


姉さんがゆるすのは、綿地に締められるきつい感覚。
彼女が掴むのは俺の服、彼女を追い詰めるのは、不安定な彼女自身。



…は、……ぁ、


彼女が漏らすのは、俺では無い女に向けた吐息。
どうして俺は、彼女よりはやく生まれられなかったのだろう。
もう考え尽くした絶望を。乗せた指は彼女が求めるままに、俺の望むままに動く。
乗せられなかった感情は、置き去りにされたまま、姉さんが襟を引くから締められる首元と、それにより狭められる気道と同じくらいには苦しさを訴えながら、いつものように。


ふ、っ……!


ごめん、なんて、言ったら殺すわという目つきが、
そんなところ噛んだら駄目だと言いたかった唇をやさしくゆるした。
甘いキスと甘くないキスの区別がつくような時期はとうに過ぎたし、おそらく永遠に得られない。
ああ、けれど。


ごめんね、


潤みながらもはっきりとした瞳が、俺をまっすぐに映す。
溢れんばかりの慈愛に満ちた、……渇望も欲望もない、与える側の、貪られる側の、
ただ、あたたかい、さっき淫らに断罪したのとは似ても似つかない素顔。


木曾。


彼女の妹は、俺だけなのだ。









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