理由なんて後回し(高雄×妙高)







怒っている。怒っている。……怒って、いる?

ああ、なんだ。
彼女は、傷ついていたのか。


……よかった、

…………高雄?


低く唸るような声。絞り出すような、吐息。眉間にぐっと寄った皺。
取り繕う余裕のない声には朗らかな返答を。頑張って吐いてくれた息には労いを籠めて口づけを。わかりやすい苛立ちの証は、そうね、わたしの指先で足りるかしら?


それを見せてくれるのが、わたしで。


よかったって、言ったのよ。
あらいやだ、妙高の毒気が抜かれた表情を間近で見るなんて特権、逃すわけが無いでしょう?
呆れたといわんばかりに目が閉じられたから、触れていた指先をついと後頭部まで回し、抱きしめるように深く口づけ直す。不思議ね、わたし、貴女の揺らいでる姿に、こんなにも心をときめかせてしまっているみたいなの。


ばかね、高雄。


きゅっと笑う眼差しは、他の子たちにも見せているものにとてもよく、似ていて。
けれど瞳の奥、あるいは口の端、声に落とさない沈黙ひとつ分、それっぽっちで一歩引いて線を引く妙高の、優しくも残酷な拒絶がそこにないことに、わたしは呆けたように笑んでしまう。


ばかでいいわよ

ばか。ばか高雄。

はいはい。


たまにはいいわ。たまにで、いいわ。
益体ないことばばかりを、すぐそばに座布団もベッドもあるというのに立ったままで、ああ、まったく、ばかみたいだわ。




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