あげた端から落ちていくの(赤加賀)







おいしかった?

…………その、ありがとうございます。


せっかく最後の一口をあげたというのに、そんな返答があるだろうか。







…ん、……んっ、


口元も手先も、目蓋すら閉じてしまった加賀さんがわたしの指に身を捩らせるのを見ながら、きょうもまたふっと思い出してしまった。
間隔は空いたり詰まったりしながら、ゆっくりとでも確実に繰り返し、繰り返し。重ねてきた他のものだって覚えているし大抵はいまでも話せるけれど、最初に食堂であげたときのことはこと鮮明にいまでもよくこうして顔を出す。どうしてかしらと加賀さんに尋ねたこともあるけれど、真っ赤になってもごもごと不明瞭な言い訳をされて、だからそういうことを聞きたいんじゃないのよと肩を落としたいのはわたしのほうだったのに先に縮こまって申し訳そうな上目遣いをされて、ああ、あのときも結局色事で流してしまったのだったかしら。だったら加賀さんばかりを悪くいうこともできないかしらね。
小首を傾げたのが加賀さんに気づかれることはない。こんなに間近で触れ合っているというのに。勿体ないと思うのはわたしばかりなのか、赤城さんの素肌に傷をつけるなんて絶対にいやですという彼女の主張をいまだに突き崩せていないから寝衣にかかった加賀さんの指が白く色をなくしているのも突っ張られた感触でしか感じることができないのがさびしい。一度強引に背と肩に痕をつけさせたら翌日蒼白な顔で土下座に近い謝罪からはじまりその場で盛大に吐かれてそのまま寝込まれたから、もう無理強いはしようとしたってできない、けれど。つけられるのは喜ぶくせに。


ね、目を開けて


こうして口にすればさすがに、従ってくれる彼女の潤んだ瞳に絆されたことにして、唇を齧るように舐めて、前準備のための呼吸を与えまいと奪いながら中指を差し入れる。とたん仰け反ろうとして、けれど叶わずにぎりりと音がしたわたしの上衣は駄目になってしまっただろうか、一度繕ったものだった気がしたから今度こそ御釈迦かもしれない。わたしなら治るのに、そんな軽口も彼女にはきっと絶望としか受け取れないのだろう。
あのときのぶどうゼリーはシンプルにおいしかった。加賀さんの方の皿に乗っていた氷菓だっておいしそうだったけれど、交換したいという気持ちより、ただ単純に、共有したくて差し出したスプーンにひどく動揺してくれたあの様は、可愛かったからこそいまでも腹が立つし、たまに――そう、たまに、すこしばかり苦しくなる。うんと近づきたくてこうして褥すら共にしているときに肝腎の加賀さんが遠くにいるように思えるとき、なんかに。



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