貴女には秘密(瑞加賀)





ふあ、……あ!!


いやいやと首を振る。それで逃れられるとも思っていないけれど。
瑞鶴は案の定、獣の顔をして、わたしの懇願を切って捨てて獰猛に笑う。


かがさん、……かわい、

や、……!!


それが免罪符になるなどと、一体何処の誰が決めたのだろう。
気づいたらお約束になっていたやりとりを今日もまたひとつ重ねながら思い倦ねる。


い、っ……く!


いきたいと何度言っても叶えてはくれなかっただろう癖に。
そんなにいきたかったんですか、はしたないですねといつの間にか涼し気に笑ってみせられるようになった彼女と視線を合わせたり唇を重ねたりしている余裕はないままに追い上げられる。


あ、あ、……あああっ!!


がっちりと固められ、反ることすら満足には叶わなかった身体が軋みながら爆ぜた。
いった。達した。絶頂した。言い方なんてなんでもいいけれどたどり着いて終われるはずのところから、降ろす気はさらさらないようで瑞鶴の動きが止まることはなかった。本当に、弾けた瞬間すら止まらなかったのだ。逃げたくても逃げられず、代わりのようにぼろぼろと涙が溢れてくる。嬌声と同じで、いくら必死でとどめようとしていても一度こぼれてしまったら止まらなかった。水の膜の向こう側で瑞鶴の表情はもうわからない。わからないならいい加減、気配までもが消え去ってくれればいいのに。瑞鶴が相手だと知覚さえしなければ、私は、こんなに乱れずにいられるだろうに。
もちろんそうでない状況などあり得るはずがない、けれど。逝っている最中くらい自分の良い体勢でいたい私と、雁字搦めの方がだって加賀さんの反応がいいんですもんと嘯く瑞鶴の、いまだ決着をみない攻防は今日は完全に瑞鶴の勝ちだ。かわいいと何度も言い募られたのに絆されてしまったのがよくなかった。


ふ、ふっ、……ひっ、……ひぁ……っ!!!


仰け反って、抵抗をまたひとつ重ねるように。無意識のうちに懲りず首を振っていたのを、馬鹿な所業だと思いながら。
何度繰り返したところで、このやり方では解放されないのだと気づいてはいても、かたかたと震える身体と同じように私の意思ではもうどうにもならないところだけれど。飽かず繰り返すことを彼女は厭わないし、縋る彼女の背はちゃんと汗みずくなのが心地よくてたまらない。圧死しかねない波に翻弄されながら散発的に浮かんでは消える思考が彼女への愛慕をまき散らして、私からどうしても最後の理性を手放させてはくれない。その方が気持ち良いと知っているからというのがどうしようもなく浅ましくて、自嘲の形に歪んだ口元に瑞鶴は気づいたのか、どうか。


……や、っだ、……ずいかく、っ、……ひっ!!

…………かがさん?


視界の明滅と共に後頭部が痛み出して、瑞鶴の脚が絡められた腿から先の感覚が怪しくなってきて。もう直にきっと気絶してしまうだろうぎりぎりまで攻め苛まれてようやく白旗を上げる私の愚かさを笑う余裕がなくなっていたのは幸いにもお互い様のようだった。
嫌だと言えば結局は止まってくれる、こうして恐々私の瞳をのぞき込んでくれる、貴女のやさしさと臆病がたまらなく好きだから。


…………っ!!!


ぎりりと立てた爪がかなしい。といわんばかりに私に縋ってくる。どうして泣くのよ。ばかね。貴女が望んで私が応えたと、貴女はそう思っているでしょうけれど私からしたらまるで逆。過ぎた快楽に垂れた涎は恥ずかしいけれどこうして貴女が掬ってくれるなら。どうでもいいと思えるのだから、どうせなら項垂れた顔で無しにやってくれた方が嬉しいの、だけれど。



……かがさん、

………なあに?


謝罪など受け取りたくはないわ。態度でそれを知った瑞鶴が戸惑うから、懲りず戸惑ってくれるから、私はいまだ、ささやかな自尊心と先達の矜持と辛うじて得ている主導権を手放さないで、いられて、いる。




--------------------------------------------------------------------------------------











inserted by FC2 system