あなたのその強さが(矢矧×初霜)





珍しくも私のキスをとどめようとしてくるから、何かと思えば。


……置いていかれそうで、いやです

ばかね、ようやくひとつ追い付いたのに。


ふるふると首を小さく振りながら呟いた彼女は、息を止めるタイプのこらえ方をして。原因となったわたしの指先を咎めないままに、こつりと身を預けてきた。黒髪はもうすっかり汗でぺったりとしてしまっていて、そこから身を捩るでもないものだから期待した擽ったさは得られなかった。


……そもそもこんなときに始める話題かしら、これ、

始めたのは矢矧さんの方じゃない、です、か、

あら、余裕ね?

んっ、……ふくっ、……!!


口元を抑えたままで仰け反って。それでも崩れない体幹には単純に感心する。いいわね、素敵よ。とっても興奮する。
脇伝いに肌を撫でる。掌全体を使って、見様によっては抱き上げるように。片手だけだし力など全く籠めていない、初霜が身を捩らせてくれるのを期待してするだけの愛撫。腋下までたどり着いたら指先を伸ばして胸の飾りに触れる。びくんと過たず震えて、でも声は漏らさなかった。残念。


とつぜんは、……にがて、です、

あなたが目を瞑ってるからよ

矢矧さんのその顔が、きらいだからです……!

あら、


極めて近い距離から睨みつけられるその瞳に、ぞくりとした。
強くなるのは自分のため。わかってるわよ。わたしもそうだもの。
それなのにこんなに獣の顔をして、悔しそうな表情で。あなたが新しい鉢巻を締めることになったときの私はどうだったかしら。思いながら解かれた髪を背でうねらせながら指を遊ばせれば小さな声と共に荒々しい息が首にかかる。もうしとどに濡れている膝上の感触を、この指で堪能するのはもう少し先、この意地の悪さもたぶん気づかれているだろうなと小さく笑ったらじとりと見上げられて噛みつかれた。


っ、……ちょ、


あいにく私は、挑発に乗るのはとても得意なの。初霜、あなた。そんなこととっくに知っているでしょう?


……っく!!


どうして私たちはいつもこんな形で繋がることになるのかしら。溜息を吐いたら矢矧さんのせいですよともう一度睨まれた。そういうところが、……ほんとう、


すきよ、

はいはい、


他の誰に言われたって応諾なんてしてくれないって知ってるもの。逆に安気だわ。




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