ぬるくとける(瑞加賀)
ぱちりぱちり、はじめたのは気紛れだった。
思ったより響くなあ、すこし心配を始めたところで後ろの空気がふわりと動く気配がした。
…つめ、
ああ、うるさかったですか?
すみません、
……いいえ、
お説教はナシですよ、
……ううん、
寝惚けたような返事を、ゆっくり口にのせる加賀さんは何かを迷っている。
そこまではわかってもそれが何かがわからなければ、結局わたしには先回りして正答をあげることはできないのだ。
足の先がほんの少し冷たい。そう思った矢先、とすりと加賀さんのからだがわたしに寄りかかる感触が。あぶない、もう少しで、そこじゃないですって言ってしまうところだった。
はい、
ありがとう、ございます
片手に爪切り、片手にティッシュ。とんとんとやって丸めて、眠そうな加賀さんがすこしだけやわらかい。
また寝ます?
きょうは、……ん、
抱き寄せたままでくず箱までずっていくのはさすがに苦言が来るだろうか。思いながらこのぬくもりを手放したくなくて。ほどかれたままの加賀さんの髪を、すこしだけ痕がついているうねりをそっと撫でる。たぶん目を細めた、そう思ったからつむじに口づけてから左耳をあらわにさせて齧った。ふるりとゆれた仕草が可愛い。ますます手を放したくなくなってしまう。
さっきまでは暑い暑いと思っていたくせに。半分は涼むつもりで、ふたつ並んだ布団から、抜け出したのだろうに。
…欲しい、ですか?
……いいえ、
死角から指先をちろりと舐められたからすこし息を呑んでしまって、そのまま咥えられるかと思ったら唇はなぞるように人差し指をくだって手の甲を食まれる。甘い声、甘い呼気、それでも加賀さんは、違うの、とちいさく笑う。
いいです、けど、
ふふ、
ぜんぶ暑さのせいにできるかは微妙だけど。お互いの熱がじんわりとあがっていくのも、伝う汗を掬われたり舐められたりし合うのも、なんだか無性に、心地よかった。
夏ですね…
そうね
意地も嫌みもぜんぶどこかへ消えてしまった、おだやかな影がふたつ。
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