きょうは何の日(瑞加賀)






空いた時間を狙って、食堂で、のんびりとお昼を食べて。
休日組が出撃組の楽しみを奪うのもねえというなんとなくの了解の元、若い子達に大人気だろう唐揚げは選ばずに、私は秋刀魚と煮物のセットにした。(大根おろしが無性に食べたかったのだ)。向かいの加賀さんは麺を啜っていた。もうすぐ梅雨明けだと騒がれながら今年はまだ毎日のように降っている。七夕さえざあざあ降りで、なぜか駆逐艦や潜水艦よりも軽巡たちの方が残念そうに肩を落としていた。我らが空母といえばアークが是非やりたいと熱弁し、サラが勿論やるわよね?という顔をしていたから空母寮から海外艦寮へ繋がる廊下に一本立てかけた。大鳳と雲龍が頑張ってくれた立派な笹に、護衛艦たちが我先にと飾りをしてくれたのは少しむずがゆかった。貴方達、自分達のところのもたくさん作ってきたのでしょう。言った加賀さんの声には、呆れではなく心配の方がたっぷり溶けていたから、みんな元気に、口々に大丈夫だアピールをしていたっけ。このひとは、そういうところでひどくやさしい。
さて、そんな自慢の恋人は。食後から妙にそわそわしている。飾りだけでなく願い事の短冊も書きたいですと、言えずにいた秋月たちのように。
流石に駆逐の子相手にするような態度で聞き出すわけにはいかないから、どうにか、わたしなりに知恵を絞って。やさしいくせに時々物凄くめんどくさい不器用な年上をなんとか攻略した結果、どうやらこのひとは無性にかき氷が食べたい、らしい。


はぁ。
それなら食べればいいじゃないですか。


思い立ったが吉日ですよ。短冊に書くほどでさえないささやかな願いなら、特に。
間宮とまではいかなくとも、今度外出許可をもらって適当な店でも、なんなら道具を持ってる艦娘を探して、作ってでも。出来が悪いわたしは加賀さんほどやさしくなれないまま、呆れてしまったのが伝わったようで、さて憎まれ口がわりにはたかれるかと覚悟したものの手も口もさっぱり返ってこない。あれ。


店売りのじゃなくて。

じゃ、作るやつ、買いにいきます?
シロップも一緒に。


次の休みのスケジュールを脳内で展開する。たいした用事はかかれていない。あえていうならそろそろ真面目に冬用布団を本来の場所にしまいたいから、そのために収納スペースを整理する必要があるくらいだ。加賀さんの休みのほうが先に一日あるからそのときにやってくれないかおねだりしようかなあ……うーんでもちらかってるものはだいたいわたしのって自覚はあるし、やめとこうかなあ……けど加賀さん、最近部屋の端に寄せた布団の山、最下段に使わない分が置かれっぱなしなの気にしてるんだよなあ……
横着したいわけではないのだ。誓って。


……道具は、あるのよ。
赤城さんの部屋に。

はあ。
じゃあ借りてくれば。

そう、なんだけど。


去年までは加賀さんは赤城さんと二人部屋、わたしは翔鶴姉と暮らしてた。いまは赤城さんと翔鶴姉で住んでるあの部屋に、なかなかいいものがあるらしい。ほほう。


……わたしがずっと作ってきたの

じゃ、それこそ作りにいってあげればいいじゃないですか。きっと喜びますよ。

……うーん。


借りるか買うか諦めるか。選ぶしかない三択は、どうやら加賀さんはどれにも不服なようだ。
続いている、なんともはっきりしない、ぐんにょりした返事はわたしがやったらたぶんおこられるやつ。加賀さんは、こういうことに対してはちっともやさしくない。ことわたしには、情け容赦が無いと言って良い。それなのに逆にされると、昔なら鬼の首を取ったかのようにわたしからあげつらって責め立てていたと思うのに、いまされても可愛い甘えとしか思えないんだから、ほんと、惚れた弱みってやつだ。……まあ加賀さんだってこんな姿、昔のわたしには絶対にみせたりなんか、しなかっただろうけどさ。


いいじゃないですか、わたしも食べたくなってきました。
加賀さんのかき氷。

……そう?


所有権は曖昧なままだったそうだけれど、加賀さんがこの部屋に来るときに持っては来なかった、って時点でたぶん赤城さんのものになったのだろうそれは、赤城さんのことだから作るのは加賀さん、までセットで所有してるんじゃないの。今年作りに行ってあげれば、きっと赤城さんはそれを捨てたりはしないだろう。むしろ捨てようとしても翔鶴姉が止めてくれる気がする。だから、ね、翔鶴姉も誘ってさ。


そうね、なら貴女のために。

もー、加賀さん。かわいくないなー


凄く可愛いですという気持ちしかこめられなかった声は、我ながらなかなか気持ち悪かった。それに朱を掃いてくれるこの人の頬を摘まみ返す。照れ隠しに思いっきり引っ張られてる最中に。
かわいくも情けなく、うんと迷ってた理由は、また今度教えてくださいね。






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