ひとさしでいい(ゆうかげ)
ノックがいつものパターンだったから、その変わらなさに安心できたし少し身構えてしまった。
お披露目は一通り終わり、後は親しい人で、という改二改装祝いのパターンさえお決まりとなってきたくらいには、近頃うちの鎮守府では、改二になるものが多い。定期的に続いている流れに連なることになるとは、わたしは本当に直前まで知らなかった。それくらいには。
はい、あげる
ありがとう、ございます。
なあにかしこまっちゃって。らしくないわね。
ぶっきらぼうに告げるあなたの方が。黒い衣装はすぐ下の妹に借りたものか、はたまた手持ちの私物なのか。後者だったらだいぶ面白いけれど笑えない。何故ってずいぶん似かよったものを自分も持っているのだ。
まーなんていうか、
換装なんだか衣替えなんだか
似合いませんか?
そんなこと言ってないでしょ
押し付けられた彩り豊かな花束から一本引き抜いて。えっマジでという顔をしたひとにくすくす、いつものように笑おうとして失敗してしまった。らしくない。先んじられた改二改装でこの人は予想通りの成長をした。水雷屋としか生きられないのよという主張にしかみえなかった主砲に魚雷、扱う手ばかりをうまくして笑っていた。変わればいいのに。いっぱいになった胸に抱いていた言葉を吐けば、変わったじゃないと嘯いたのだろう。ぜんぶわかっている瞳をして。
ぱきりと折った茎、持て余したから手渡せば嫌な顔をする。三つ編みの根本よりはやや上、こめかみ近くにおおぶりのリシアンサス。まったく、落ちないように小道具を取りに行ったときに目の前の陽炎さんの手の中のそれは捨てておけば良かったかしら。
いーじゃん、
ありがとう。
あまりそんな気分ではなかったけれど、顔が近づいたから目を閉じれば頬に唇が。思わず瞼を開けてしまったところですっと離れられる。ああ、身長差は結局変わらなかったのだなとは遅れて思った。陽炎さんの吐息からはいつも嗜んでいるミントの匂いがした。
さて。
あんま独り占めしてても怒られちゃうし、
ここだけではご不満?
まさか。
手と手が重なって、まさかエスコート?なんて。本当にまさかね。上からきゅっと握られたのは一瞬、離れたときにはいつもの陽炎さんだった。一瞬で失うには惜しい、表情をしてくれていた。
親しい人、である可愛い妹たちに、髪飾りについてたくさん、たくさんいろいろ言われるだろうことすら、ちょっと楽しみになってきてしまった。それくらいにはわたしはどうやら浮かれている。理由はありすぎて、困ってしまうくらい。
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ふたりとも改二おめでとう。
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