熱情を溶く(翔鶴×赤城/ftnr)





眉を下げて困り果てている姿に、劣情を催さなかったといえば嘘になる。
いつもの遠慮がちな謝罪が間近から心地よく耳を通っていくさざめきに、邪な気持ちを抱かなかったかといえば、無論。
何があろうとどう繋がろうと、所詮いつものふたりの延長線。そう気楽に考えていたのに、ぐるり、視界が激しく掻き回されるように乱されてから、おかしくなった。


い……っ!

悲鳴が喉から迸る。
甘い妄想など一瞬で打ち砕く、骨ごと磨り潰されたような痛みだった。
生理もない、妊娠もしない。たとえ男性社会の性処理役として目論まれているにしろ不要な組織だし、よしんばあったにしても職業柄、とうに失われていると思っていたものを破られたとしか思えない激痛に思考が遠ざかる。こんなの想定してなかった。息がうまくできなくて、辛くてたまらないのに動くこともできず、ぼろぼろと涙が零れてくる。

――高速修復材による副作用のひとつ。聞いたことはあった。
よっぽどの頻度で使用しないと、ひとつめの症状――使用後もしばらく昂奮状態が続く――ことすら稀なはずだったけれど。段階をいくつも飛び越えて翔鶴に生えてしまったこれ、を、わたしにちゃんと相談にきてくれてよかった。呑気に喜んでいたわたしにどんどんと与えられる灼熱にはそれでも確かに愛情と恋慕が溶けているのだから堪らない。快感に身を委ねるのとも嫌なことを只管に我慢するのとも違って、地獄だと思うのにやめさせる気にはちっともなれなくて、狂いそうになる心が、無体を強いられている身体ごと鷲掴みにされている。


あかぎ、さ、

そっと抱き寄せられた、おずおずと乱れ切った髪を鋤かれた。そうしてあらわになったわたしの耳に、ごめんなさい、と囁かれた。
はじまるときの謝罪に近しい声音はとてもなめらかで、すぐ抜きますから、と続けられた翔鶴の提案に反射で首を振ってしまう。途端、とびきり困ったような気配がますます強くなり、同じくして異物感がじわりと存在感を増した。ちょ……っと、嘘でしょう。


ひっ、

従順ながら強情な彼女に、下の方はこんなに正直なのにねとさんざん揶揄して苛めてきたのは誰だったろうか。息を吐いても吸っても辛いこの状況から、一刻もはやく解放されたいのにまだ終わらせることだけはできないと頭の中で嫌になるくらい自分の声が叫んでいる。身を捩らせた代償は自業自得で、ずり上がろうとしてもうまくいかず、それだけで泣き喚きたいのにいま投げ捨てたら取り返しのつかないことになると早鐘を打つ心臓がぐるぐると血液を巡らせてわたしに必死で訴えている。いや、もういや。痛いのは、いやなの。


は、……ぁっ、……んぅっ?

わたしの後頭部を撫で続ける彼女の指が、知らぬ間に件の火元間際まで来ていた。そろりと触れられ、まるで髪と同じように撫でられる肉芽の周りに、さっきまで蕩けきっていた身体は安心したかのように反応しようとして、また固まって。


はぅ、…ぅ、……うぁ……

止まらない涙とうまく飲み込めずに伝い落ちる涎が煩わしい。ゆるやかすぎる指先の動きはひどくもどかしくて、けれど少しでも動くと麻痺していたはずの痛みがまた襲ってきて、どうすれば乗り越えられるのか、楽になれるのかまるでわからない。赤城さん、また名前を呼ばれてすこしだけ顔をずらせば、真面目だけれどひどく切なそうな彼女の表情が間近にあった。口付け、したい。そんなの無理だとも同時に思ったけれど気がついたら自分から唇を寄せていたのだから、笑い話だ。


……たすけ、て、

ふわりと啄まれた口唇までが優しく、わたしのことばかりを慮っていたものだから、もうどうにでもなってしまっていいと思ってしまった。
立場が逆だったら、わたしはとっくに彼女をぐしゃぐしゃにしているだろうし、手加減をくわえるより本能を貫き通したほうがより強い愛情表現だとさえ思っていたにちがいない。もちろん翔鶴はわたしではないしわたしたちの関係はすべての感情がまったくの等価というわけでもないから、彼女がどう思うかなど想像でしか計れない。それでもお互い思い合って、今日もここまでわたしばかりを優先してくれて優しくされて、そんな相手になら選択肢を全部明け渡してしまっていい。そう思ったから。まるで具体的ではなく的確な命令でもないねだり方をして、みせた。


ふ、ふっ……あ、ぁ………

果たして彼女が選んだのは、指先ばかりを殊更に優しくした地獄の再来。ただ細いばかりだった背に腰に頼もしさと愛おしさを感じるようになってからはじめての体験、服従とも屈服とも思わないけれど、主導権などとんでもない世界で翔鶴に縋ればいちいち丁寧に心地よい言葉や刺激が返されるものだから、ますますおかしくなっていく。

ああこれを彼女が先んじて知ってしまっていたとしたらとても厭だな。ひどい独占欲とともにはらはらと垂れ落ちている白髪に指を絡めれば、きっと引き攣れてしまって痛かったのだろう、少しだけ顰められた眉がふっと優しげになだらかに落ちてわたしの黒髪を同じようにかき乱す。汗まみれでみっともないからもうそれくらいにしてとまた泣いたわたしを逝かせようとしてくれているのはさっきからわかっているけれど、今日は流石に、刺し貫かれたままではどうにもうまくできそうにない。抜かれるのは嫌だし、……いや? いやって? こんなに苦しいのに?


……ごめんなさい、

今度の謝罪は、きっと正しく受け止められたと思う。良いのよ、強欲で。そんなところも好きなんだから。
次があればわたしもと、痛いのにはもう堪えられないと思いながら考えてしまっている貴女以上の貪欲さに。どうせ翔鶴だって気づいているのでしょう? 















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