といろのかけら(能代と矢矧)







いつもぴんと伸びた背を、曲げてしまいたかった。
あのひとと笑う顔を、歪めてやりたかった。
私は、この妹が嫌いだ。


わたしは、能代姉さんのこと、好きですよ。


嫌いだ。
私のことを、姉さんなんて呼ぶところも。
こんなときばかり、敬語になるところも。
こんなときにさえ、殊勝からは程遠い生意気な顔で、悠然と微笑んでるところだって。


……強がり

弱がって、何か変わるの?


あのひとがいないから、矢矧は少しだけ冷たい。
それを愚かだと思うことはないけれど、うらやましがりたくなるような心は、どこを探しても見つかりやしない。
この感情に理由づけをしたくなってしまうから、……阿賀野姉の目は、私に向かないのだ。


わたしは変えたいの。
変わりたいの。
それが、ねえさんの気に障るなら、


軽く首を傾げた矢矧は、そのままふっと笑って首を振って。
いいえやっぱり謝れないわ、そんな言葉を、勝手にこぼして。
廊下の片隅で立ち止まって雑談、そんな風に称するには多分に険悪になりすぎているこの雰囲気を、和らげることも助長することもなく。


姉さんの後は継げなかったし、
あのひとも守りきれなかった。
……あの頃のわたしよりは、強くあるつもりだから。


目標ですら無い。
細めた目の奥は凶暴で、私とも阿賀野姉とも、酒匂とも、似ているようには思えない。
だから、嫌いだ。
阿賀野姉のように、酒匂のように。あるいは武蔵のように、大和のように。
こんなことをまっすぐに言ってくるところが、私にはちっとも似ていないところ。







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