灯火は遠く(ゆきひえシリーズ時空で比叡と榛名(→金剛))






雨の当たるガラスのはまった窓際で頬杖をついて、
見えるはずもないひとをただ見つめている妹は、
ただ痛々しくて――ほんとうはこんな風にあらわしたくなんかないけれど――とても、見ていられなかった。


はるな。

……なぐさめないでください

はるな、

おねがいですから、

こっちおいで。

……ねえさま、


来ないならこっちから行くよ。
そう言っても榛名は石像のように動かない。
動かない、表情筋も、涙の筋も。
見えない感情が、わたしには大きすぎて、
わたしはとっくに諦めた大きいひとを追いかけ続けている彼女が、ずるいくらい綺麗で。


こんなことしかできないけど、

…や……

こんなことくらいは、自分に許してあげな。


窓際で抱きしめるだけで、断ち切れなかった外気が、しんしんと染み込んでくる。
それらにとっくに侵略されきった榛名は凍えるくらい冷たくて、だから余計に、ぽかりと浮かぶ熱がひどく生々しい。


…比叡、姉様。


あえかに絞り出す榛名の声は、それよりよほど熱っぽくって。
あぁ、わたしにも覚えがある、この声だけで、そして腕の中でかすかに動く、この震えだけで、
全部わかってしまう。わたしなんかにわかるんだから、お姉さまが知らないはず、ない。
(そんなこと、もちろんお姉さま自身も、榛名だって、わかっているんだろうけれど。)
好きかそうでないかなんて知らない、でも少なくとも付き合ってはいない相手と出かけている、たぶん裸で絡み合っている、それを妹たちに取り繕うことさえしなくなったお姉さまが、そうなってしまってさえ。お姉さまを悪くいうことなんてしたくないけれど、少なくともいまは榛名の味方でいたかった。
こんなことくらいしかできない姉だけど、それでもわたしは、正真正銘、(あるいは恋愛的な思慕を向けられていないという意味でなら、唯一の、)この子の姉なんだから。





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