さくらいろのあさ(瑞加賀)






……ぃかく、…ずいかく、

……ぁ、

…瑞鶴、起きて。


照れてたり、恥ずかしがってたり。あるいは怒ってたりすることは結構あるけれど。
(ごめん、正直に言えば最後のひとつが一番多い。)
困った顔の加賀さんに起こされるのは、初めてだった。


……えっと、

ずいかく。


そしていきなり手を取られる。
おはようの挨拶も無しに、……というのはお互い様なんだけど、……えーと?


…おはようございます。

おはよう。
…じゃなくて、


ぐいと、手首につけてたのを引っ張られたから、流石に、加賀さんの困り顔、ついでに焦り顔の謎は解けた。
首を傾けて置き時計の表示版を見る。マルナナフタマル。あちゃあ、これは、このひとにとってはずいぶんなお寝坊だ。


かえして。

いやです。


えっという表情をぐんと近づけたところで目を瞑って、おはようのちゅー。
唇のはじっこになったのは結果論だ。深いのにするつもりは無かったから問題無い。


縛ってあげますから、櫛、取ってください。


言いながら自分で取りに行く。今日の加賀さんの予定、ちゃんと知ってるし。
寝てる私から無理やり髪ゴムを取り上げなきゃならないほどではないけど、昨日遅くに帰投してくたくただった私を揺り起こさなくちゃならないくらいには大切な、約束のこと。昨晩、する前に、ちゃんと聞いてた。
目の前の加賀さんしかみえてなかったのは事実だけど、私の体調を心配するこのひとを押し切って抱いたけど。ちゃあんと覚えてますって。という気持ちを籠めて、優しく髪を梳く。
おとなしく私に背を向けた加賀さんの首元はほんのり赤い。赤城さんとふたり揃ってオフなの、久しぶりですもんね。妬いたりしませんから、しっかり楽しんできてくれていいですよ。
なんてほんの少しの嘘を混ぜたものを口にしてしまえば、あっさりバレて逆に気を使わせてしまうのがわかってるから、私は黙ったまま。加賀さんも、いつもなら照れ隠しの皮肉のひとつやふたつ、飛んでくる状況なのに何も言わない。


はい、

ありがとう。

いーえー、

昼過ぎには戻るから、

…いいですよ、夕方で、

戻る、から。

……はい。


振り向いた加賀さん。さっきまで私がこのひとのお気に入りをつけっぱなしだった手首を、そっと、輪をえがくように撫ぜて。
思わずびくんとした私に、くすくす、してやったりという目をして、笑った。


行ってらっしゃい。

行ってきます。


買ってきてくれるだろうお土産はなんだろうと考えながら、私はもう一度布団に倒れこむ。
昨日精神的な充足を優先させてしまった反動で、身体はまだ睡眠を欲していた。
だから仕方無いんです、と、脳内で呆れた顔をする加賀さんの、昨晩の優しかった(ずいぶん素直に乱れてくれた)姿を思い出しながら、あっさり訪れた睡魔に身をゆだねてしまうことにした。
……そのせいか、日のあるうちからやけにえっちな夢を見てしまったのは、加賀さんには内緒だ。







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