11メートルの純情(赤翔)






ひ、……ぃ、……っく、


この子が泣き叫ぶ様を、見たいと思った。


や、……赤城さん、……ふああっ!!


いつもだってそんなに繊細に扱ったり、しないけれど。
まだまだ余裕みたいだから、ぎゅうと、押し付けている縄をぴんと張る。
途端硬直する彼女が可愛くて、びくりびくり、小さな絶頂を迎えた様子で痙攣しているのが、愛おしくて。
けれどそんな感情を、口にしたところで彼女は怯えて、逃げてしまう。
信じられないという顔をして。
加賀さんだって同じような愚痴を零していた、この間の宴会の席。
思えば、あれが、端緒だったのかもしれない。


あ、……ぁ、………っ、


この子は痛みには強いから。
とても、強いから。慣れてしまっているから、日常の延長にしか、なってはくれないから。
だからという言い訳をして、くぐらせた縛り方は、この間のそれとは違うもの。
練習はしなかったけれど事前調査はした。私の部屋の梁では長さが足りなかったから翔鶴と瑞鶴さんの部屋で、目隠しは翔鶴の鉢巻か何かでも良かったし、手首くらいなら私の襷で縛れてしまえたけれど、そのどちらをも、専用といっていいだろう道具を揃えて。
承諾を取る必要が無いのは常のことだったのに、いいでしょう? なんて、耳元で囁いて。
こくり、頷いたのを確認してから吊り下げた、……睦事というにはひどい、いつも以上に愚かしい情事。
はじめから、ぜんぶ、わかってた。


ふ、…ぁ、……う、ぅ、


じゅる、と、唾液を啜ろうとする音が聞こえる。
もう随分前から、ぽたりぼたりと落ちてしまっているのに。それでも必死で醜態を回避しようとするのは、彼女の、どんな思いからなのかわからない。
恥ずかしい、だけなら、良かったのに。
そんな単純な回路を持つことを許さなかったのは私であることを棚に上げて思う。つうとまたひとつ落ちようとする透明な雫に引き寄せられて、口付けをしたくなったから麻縄を引っ張って私の方に引き寄せる。


ぅ…ぐっ……


唇を噛み締められてしまっては、できないじゃない。
彼女自身によって負荷がかけられすぎて、ぽってり腫れている下唇を指先でつつけば、少しだけ間をあけて。
それからしどけなく、開かれていく口の中。
なんだか、舌を差し入れるのは、勿体なくなってしまった。


ひゃ、…は、……ふ、っは、…は、っ、


鼻を摘んでしまったから、口で呼吸をするしかない翔鶴が、顔から首元までさあっと赤く染まる。
いったばかりで、しんどいでしょう? ぱっと鼻呼吸を解放すると同時に、やっぱり当初の目的通り、深く口づけた。
とっさの対応ができずに息を詰まらせた翔鶴が、自由にならない身体で必死にもがくのを、押さえ込むことはしないけれど望むものもあげない。
代わりに、望んではいないはずの、でも確かに快楽の糸口くらいにはなる刺激を、嫌になるくらいに与えてやる。
私はこれほどまでに執着心のある女だったろうか。


あ、…か、ぎ……さっ、


ああ、だめよ。私の名前なんか、呼んでしまっては。
きっと今日も、泣き叫ぶ程の快楽と痛みを与えてしまってもなお彼女は乱れきるより先に意識を飛ばす、届かない果てをどうにかして欲しがろうとする私を、ただ、煽るだけなのだから。


しょうかく、

ぃ……っ!?


私が名前を呼ぶだけで小さく跳ねる、小さく果てる、それに喜悦を覚えながら物足りなさを同時に抱えて、
胸に回した縄と縄の間に噛み付いたら、引き攣った悲鳴が漏れた。
欲しかったものに少しだけ近かった気がして、どくり、心臓が高鳴って頬が熱くなる。
その感情のままその熱をすり寄せれば感じるのは彼女の鼓動、呼吸に合わせて震える、汗の滲んだからだ。
泣いても叫んでも、そのどちらをも同時にくれることはない、私をおかしくさせる彼女の匂い。
彼女が欲しいものも私のあげられるものもわかるのに、それが一致しないことにさえ気づいてしまっている私に、いっときのゆめだけを思わせてくれる、甘く苦い、高い声。





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