目を開けても甘い(瑞加賀)






額を打ち付けた壁がざらついていて、冷たい。
そんなこと、手を押し当てたときにはとっくに知っていたけれど。
掴むにはとっかかりが足りなすぎ、かといって他に身を固定する方法があるでもなく、
彼女の希望を打ち砕いてまで逃れなければと思う程恥ずかしい体勢でもなかったから。
結局、ただ白い壁紙に這いつくばるような真似をする羽目になる。
至近距離から反射する声よりも、自分の呼気が生暖かい空気となって顔のまわりにまとわりつき続ける方が、余程厭わしかった。


……ぁ、…あ、……っ、


声をこらえきれないわけじゃない。
こんな風に腰を揺らめかせなければ、受け止めきれない快楽の強度では、無い。
だから甘くなる声が、揺れる身体が、つまりは彼女が何をしているかよりも私自身が。
私の羞恥を煽ってやまないから、つうと垂れた唾液は、飲み込みきれないまま、ぽたり、落ちて行く。


…かがさん、


切羽詰った瑞鶴の声。
こういうとき、彼女の音域は、いつもより更に高くなるのだから。
真剣な囁き声、低音にときめくだの何だのと言ったあの人の惚気にはただ首を傾げるしかなかった。
そもそもそういう声は、される側が、出すようなものじゃないかしら。
尋ねたら、最近は加賀さんにしてるだけでいけるようになりましたと真っ赤な顔で答えられて。
それならば私が、すれば、もっと気持ちよくなれるんじゃないの?
半分は挑発で有言実行した、ある日の夜戦はまあ、気持ちよくないことは、無かったけれど。
何か違うというか、物足りないというか。
私だけならさておき、瑞鶴までが同じ表情を浮かべて同じ感想を述べたのだから、呆れてしまう。
悪くはないけどたまにで良いです。
そう告げられて、されたキスは、いつもよりずっと優しくて。
その日の物足りなさをますます助長したせいで、来るべくして来た次の夜が、それはもう、大変なことになった。


…ん、……ずいかく、

……はい、


こんなことを悠長に考えていられるくらいには、今日の愛撫は緩やかで。
最初から閉じてはいなかった足をもう少しひらいた、私に瑞鶴が小さく微笑む。
その唇の動きを背中で感じて、ぴくりと揺れたのは今度こそ、不意討ちの快楽で。
小さく小さく弾けたそれに、とろりと新たな蜜が漏れた。


あ、……これ、

っ、……ん、…あ、


太腿を伝い切る前になぞられ拭われる、それは彼女が口に含んだのだろう。
肩甲骨の上でくちゅくちゅと卑猥な音がして、もうとうにとけている私の下腹部がますます重く疼いた。
ややあって、ぷは、と。まるで彼女自身が理不尽に唇を塞がれていたかのような荒い息が聞こえてくる。
ああ、もうこんなところまで来ていたの。


きょうは、もうすこし、

っ!
……ずいかく、

おねがい、ですから、


さすがに抗議しようと非難の色を混ぜれば、背中にふたつ、道着の上からの口づけと。
忘れていたかのように触れられる、壁で潰さずには辛うじていられている胸への刺激。
彼女自身を、宥めるように揉まれて捏ねられては、もういい加減挿れて欲しいと、いうこともできない。
甘えてくる瑞鶴をゆるすために吐いた息と共に伝った愛液は、今度こそ腿を伝って足首の方まであふれていった。





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