花一華(如月と翔鶴)






……お待たせしました。

あら。

…え?

…いいえ、待ってないわ?
……でも、いらっしゃい。


それと、ケッコンおめでとう。
そう言ってゆるくわらうのは、ただ、うつくしいひと。
…私には所詮関わりのないと思っていた、遠い隔たりのあった主力艦隊の一員。


…あの、

蒼龍さんね。

……はい。

もう、…過保護なんだから。


巻き込んでしまって、ごめんなさいね?
いかにも人あたりの良さそうな表情の癖、やっぱり私たち駆逐娘とは立っている地位が違うと痛感させられるような壁の向こう側にいる正規空母は、翔鶴さんは、それでもそう言ってにこりと微笑んだ。
こういう態度は逆に安心させられる。私はしがない駆逐娘で、死神でもなければソロモンの悪夢でも無い。前世の鉄の塊が、空母護衛のために作られたわけでもない。


みせて、

あ、はい。

ふふ、
……ねえ、加賀さん。


またひとり、仲間が増えましたよ。
私の手を取った指先はずいぶんと冷たかった。


…ずいぶん、違うかたちですね

そうね。
それにこれ、わたしの指輪じゃないし

……


だって加賀さん、わたしの指輪、持って行ってしまったんですもの。
噂としては知っていた。ケッコン指輪は、艦娘間ならば交換できるしその効力を失わない――もっとも、同じ提督の下にあり、お互いが指輪を持つ権利を有していることが前提とはなるけれど――そして、その効力を発揮させたのは、うちでは長門さんと陸奥姉さん、そして加賀さんと翔鶴さんであることも。
聞いていたし知っていた。恋人としての仲睦まじさは、この目で嫌というほど見てもいた。
そうであっても、なお。


ほんとう、ひどいひと。

……そうですわね

ね。
……ふふ、あはは、


なめらかな石を愛しげに撫でさする指は細く、道着の袖からのぞく腕は折れそうで、
どうしてこんな細腕で弓が引けるのか、
(あんなにまっすぐに迷いなく飛ばせるのか、)
いつか山城さんに思ったのと似たような感慨が脳裏を横切る。


あなたの指輪は持っていかれないようにね

……相手もいませんから

…ああ!
そうか、あなたは指輪を渡せないのよね

……どうしてみなさん、「そう」考えるんですの

え、
だって如月さん、
提督のこと、好きでしょ?

……そうですね

提督も、

……まさか、

あら、
…ふふふ、


ころころと笑う翔鶴さんは、……一体いつからこういう風に笑うようになったのか。
知っているようで、……実はあまり自信が無い。


ぜったいに沈まないとは言わないけど。
そう簡単に後は追わないわよ


私の心情を透かし見たのか、(……透かし見る必要もないほど顔に出ていたのなら情けない限りではある、)加賀さんの墓標の前で翔鶴さんは私の手をつかんだまま、


この手に、どうか、
……ご武運と安寧を、


すうと静粛になる、厳かになる。
……こういう空気は苦手だ。翔鶴さんに目線を向けていられなくて仰いだ空は、蒼い青い快晴。


……ありがとう、ございます

いいえ、


こちらこそ、ありがとう。
こんな嫋(たお)やかな手に泊地の平和がのしかかっているのなら、せめてそれを僅かなりとも軽くする手助けくらいは出来たらいい。
部隊が違う、役割が違う、そんな身でだってそう思えるのだから、
……蒼龍さんはすごいし、叢雲も相変わらず、嫌になるくらいこちらのことを承知している。










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XX14.11.21
 秋イベE-4にて、加賀(123)轟沈。
 出撃艦隊:矢矧(97)古鷹(127)比叡(122)榛名(122)加賀(123)翔鶴(124)。

XX15.04.04
 ケッコンカッコカリ13人目:如月。










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