牡丹を異名で呼ぶ(高雄×妙高)







べつにどちらがどちらでも良かったし、気分次第でも、交互に役割を分かつ形でも構わなかった。
そうしなかったのはたぶん、気を遣ったあと、落ち着いたのちに落ちるこの吐息が好きだからだ。



……ふ、ぅ、

…ふふ、



妙高の顔を見つめる。見られていることに気がついた彼女は、やや気だるげにわたしの方を向き、なあにという目線をくれる。緩めも絞りもしないまま、少しだけ茫洋の気配が残る瞳の奥は覗き込んでも器を変えただけの私の心が写っていると知っている。
問いかけをうつすときに、言葉は落ちないのが心地良い。もっとも落ちたら落ちたで、自分は嬉しく思うのだろうからそれは喜びというよりは、飽きもせずに満足を数えることで満点より先の充足を得ようとする、女の我侭というものだ。
知らず笑み崩れていたらしい頬を、妙高が撫でる。はじめに少しだけ目を細めて、それから次第に愉しげに、最後には、くっくと喉の奥で笑いながら撫で回す指先は、しっとりしていてとてもくすぐったくて、彼女を挟む形でシーツを掴んでいた手に力が籠った。
振り払うことはせずとも、噛みついてしまえば良かったかもしれない。


……さて、


彼女がとうとう口に出す呟きは、息継ぎの合図。
塞いでしまうのは容易いけれど、そのまま起き上がった彼女に塞がれる方が好きだから待ち受けるのは、もうずいぶん、慣れ親しんだやりとりで。
戦中の彼女は勇ましかったし、戦後はお互いの存在がそれだけで拠り所だった。
姉の顔をしているときについてはお互い様で、口は出さないし出させはしない。
変えられない過去とも生まれついての性分とも無関係に覚えた癖は、並べ立ててみれば気恥ずかしいものばかりだ。


今日はここまで、かしら

そうねえ


少しだけ掠れた声が耳元をくすぐる。ああ、それ、すごく好きなの。
知ってるわと笑っている目にくちびるを近づければ、気配で感じる、睫毛を伏せた表情。
彼女の口元が弧を描いていることは知っているから、目線でも指先でも確認しないままで私も瞼を落とす。
濡れた粘膜を押し当てると同時に喉元に吐かれた生ぬるい呼気が、何よりも甘かった。











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