教えてあげない(ゆらだち。ほんのりゆうさみ)







ゆら、ただいま!

……うん、おかえり

ただいま!!

…はいはい、

たーだーいーまー!!

……ん、


パスだって三回までなんだから、三度目のおねだりには自分から目を瞑ることで応えた。
背後で夕張が呆れたため息を吐いている。
いかにもこれみよがしといった風、小言を言わないのは言っても聞いてないとわかっているからだろう。わかってるなら邪魔しないでくれる?


ほきゅー完了!

整備は?

それはまだっぽい!

じゃあ後ろの緑の人の出番ね

えー、由良にやってほしい

わたしにできること?

ん!!


満面の笑みの夕立と、向き合ったまま手を繋ぐ。
思いっきりキスをしたあとで。
後ろの緑の人はもう一度ため息をついたけど、それより、そのお隣の可愛い青い子に気を使ってあげた方がいいんじゃない?


メンテナンス部屋、空いてそう?

んー? わかんない、

そう。じゃあとりあえずいってみましょうか

いまから?

今から。


キスの続きは? 今からじゃないの?
全身で訴えてくる夕立を、てのひらで押し止めればぐぅっと唸り声をひとつあげたあと、渋々引いてくれるのが可愛い。
いくら想定の範囲内だって。可愛いものは、可愛い。
最初のときはドン引きしてくれて、その次のときは真っ赤になって、でも最近はため息量産機と化している後ろの夕張はいくら新鮮だろうと心を動かされたりしないから、変なリアクション、取らなくていいわよ。
獰猛に勇敢に戦って帰ってきてくれた狂犬はキスひとつで可愛い忠犬に早変わり。
わたしの恋人はとってもお利口なの。


じゃあはやく行くっぽい!

はいはい、

はいは一度なの!

うん。

ゆら、それずるい!


つながったままぶんぶんと振られる手が、あったかいから。
キスをしてもいい場所というものをちゃんと弁えている賢いところを教えてあげることは今日も無いまま、暇を潰していた夕張の部屋にお別れを告げる。
そうね、あなたを身内としてカウントしている夕立のことは知らないままでいいけれど。
夕立と一緒に帰投して、一緒だったからという口実をつけなくちゃ貴女の部屋を訪れることもできない五月雨ちゃんの心境くらいは、もう少し、汲んであげられるようになった方がいいんじゃないかしら。夕張。











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