何度だって(赤城×翔鶴)
やだ……っ
どうして?
そ、……な、っ、…ぁっ、……っい!
…しょうかく、
あ、……ぁ……あかぎさん、…んっ!!
どうして。
そう問うたのは、意地悪からではない。
……少なくとも、今日に限っては。
思えば今日の翔鶴はいつもより強情だった。口付けをしようとすれば指先で咎められたし、それでも尚と唇を近づければ、そっぽを向くように拒絶された。
それには結局顎を取って、強引に重ねることで解決してしまったのだけれど。
ひゃ、…ゅ、……ふっ!!
…はぁ、……っ、
痛いくらいの抱擁を与えて、痛いくらいの拘束を得る。
触れれば触れるほど。私にしがみついて、すがりついてくるのは彼女の方だというのに。
そのかわいらしい口から出ることばはやっぱり否定だとか拒絶だとかいった種のもので。
それくらいで止まる気など無論無いものの、こうまでしつこく拒否されると何かあったのかと心配にもなる。
心おきなく翔鶴を抱くことができないのは全くの不本意だ。……そうで、あるからして。
……そうね、
………は……え………?
呆けた声を素肌で感じたのを最後にして、すっと身体を離す。
なあに、こうなることを望んでいたのは、貴女の方でしょう?
……あか、ぎさん?
はい。
………あの、
うん?
……つ、づけて、くださいっ
どういう風に?
っ!!
そんな他愛ない挑発ひとつで、途端硬直してしまうような可愛い子に、こういう真似は元々似合ってなどいないのだ。
どうせまたしようもないことを考えていたのだろうな、それくらいのことは容易に察せられたけれど。
それを白日のもとに晒し上げるのは達させる前、そこまで追い詰めてからにしよう、そう考えるわたしは勿論意地が悪いし、ひどい先輩でもあるけれど。
やだやだと譫言のように言いながら首を振っている彼女の方が卑怯で、……だからこそ恐ろしく可愛く、愛しいのだと。
思うこころも。それを告げる代わりに噛み付く行為も。
わたしの思いを厭になるほどあらわしているというのに。
それを素直に受け取る余裕の無い彼女が歯がゆくて憎らしい。
やさしくされるのが好きで、それをちゃんと口に出してもくれるのに、少しばかり痛くすると途端凄まじいほどの艶姿を見せてわたしを翻弄させてくる翔鶴が。
苦しいくらいの方が、素直にわたしにしがみついて、時折愛の言葉を囁いてくれさえする恋人が。
ほんとうに、芯から望むものをあげたいと思うのにそれに対する確信を持たせてくれない彼女が、とても、
っは、……ぁあああ!!
っ!!
押し付けた唇でさえ、絶頂を感じられる勢いで仰け反って達した翔鶴はそれなのにまだ物足りなさそうに肢体を揺らしている。
わたしの存在が役不足であるとは思わないけれど、わたしの技量ではまだ彼女の満足には及ばないのかもしれない。
(ああ、だけれど、こんな悩みはいったい誰に吐露すれば良いのだろう?)
どうしようもない葛藤は、きょうももやりと幸いの涯(はて)にたどり着いたはずのふたりの間に挟まってわだかまった。
……しょうかく、
…は、……はぁ、…っ、
……は、い、
まだ、
…ん、……ぁ、……や、
……だめ?
……んぅっ、……んんっ!
おそらくは反射で振られていた首が、わたしのその問いかけで慌てて静止する時点で。
彼女の真意など、はかるまでもなくわかろうものなのに。
直接、はっきりと彼女の口から聞くまでは安心できないわたしは、さっき不用意にいかせてしまったことを少しだけ悔いながら、
今日もきちんとわたしの手で達してくれたというそれだけで途方もない多幸感に包まれているのを、隠し通せるはずもなく彼女の前にさらけ出してしまっていて。
……や、……ん、
…どうして?
……だ、…って、
その先の答えも、とっくに、知ってしまっているというのに。
彼女がそれを紡ぐ理由を明るみにすることができないのがただ歯がゆい。
…あかぎさん、
うん。
ちうと吸い付く襞は、少しばかり苦しそうに震えている。
すっかり赤黒く染まってしまって、だけれどもっとあからさまに熟れているこれに触れてしまっては、また、話せるような状態ではなくなってしまうでしょう?
視線を感じたから目線をあげれば、がんばってわたしの方に顔を向けている翔鶴のそれが更なる熱を帯びて、潤む瞳をかすませるようにぼうっとけぶった。
わたしの頭ももうとっくにやられている。彼女の様子と比べるなんて愚かだ、肌と肌同士をすりあわせれば両者はどんどんと馴染んでいくし、どちらかの粘膜を擦ればたちまち溢れる液体は、ただ徒らに流れてゆくのが許されるはずもない。
舌と顎が疲れてきたから、体勢を変えようとすれば途端絡む力が強くなる。彼女の腿に挟まって、いや、押さえつけられているのに背骨が少しばかり嫌な音を立てた。
…しょ、うかく、
……や、です。
……はぁ、
…ん、
……っ――ああっ!!
仕方が無いから、さっきは情けをかけてあげた蕾に容赦無く歯を立てる。
このまま壊れてしまえばいい。わたしの欲しいものを抱え込んで手放そうとしない理性を、一息に吹き飛ばしてしまいたかった。
舌で弄るのでは無く唇で挟んで、断続的に吸い続ければあっという間に彼女の視線は宙に浮いて、わたしを離すまいとするのでは無くわたしから離れようともがく脚が、彼女の制御を離れて蹴り飛ばして来ようとするのだからたまらない。
片足をわたしの肩から強引にぐいと引き落として、左腕でなんとか押さえつける。ずり上がって逃げようとするのにはもう一度歯を立てることで封じて、けれどそこから先は快楽だけが与えられるように。
直截的な気持ちよさにどうしようもなくなって、踊るような嬌声からすすり泣きが入り混じるようになったら、今度こそ。
……ね、しょうかく。
んぁっ! あ、…ぁ、……ふ、っ、
…あか、…ぎさ、……な、……ですか?
どうしたの、きょうは。
……んでも、…な……
つづけてほしいの?
っは、…っ、
あ、これは。さっきまでの愛撫よりも焦らされる方を想像しただろう翔鶴は、ぶるりと震えて、そのまま、わたしに向けて縋るような眼を向けてくる。
あなたが望むなら、「そういう」ふうに、続けてあげるのも吝かではないけれど。
どうせ吐くまで許されはしないのだとわかっているくせになおも迷おうとするのは、……わたしが隠し事をしたときは翔鶴にいよいよ冷たい無視を決められるまでなんとか誤魔化そうとするのと同じ、……ところから出ていると信じたいところ。
どんなにくだらないことでも聞いてあげるし、どれほど深刻な悩みであっても受け止めてあげるのに。
今日のこれは、おそらくは他愛ない部類ではないだろうか、と思ってはいるけれど。もしかしたら大蛇が出てくるかもしれないのだし、そんなものを封じ込めているのだとしたらとても厭だ。ひとりで抱え込んでいてなど欲しくは無い。
緩んだ締め付けの隙間でちょっとだけ楽な姿勢に位置をずらしながら、戯れにふぅっと息を吹きかければまたぎゅっと肢体が収縮する。
ぁっ!
ほら、
わたしが楽しくなってきてしまう前に降参しておかないと、いつも以上にひどい目に遭うわよ?
*
やだ……っ
どうして?
そう繰り返して、幾度が過ぎただろう。
そ、……な、っ、…ぁっ、……っい!
…しょうかく、
あ、……ぁ……あかぎさん、…んっ!!
名前を呼べばゆるしてもらえる、なんて。
端から思っていたわけではないけれど。
ないけれど、それでも。呼べば何かしらの糸口にはなるだろうと期待して呼んでいたのは本当に最初の頃だけで。
いまはただ。呼べば安心できるから呼び募っているばかり。
……そんな風に追い詰めた方こそ、赤城さんだというのに。
どうして?
ひゃ、…ゅ、……ふっ!!
痛いくらいの抱擁は、痛いくらいの拘束でもあって。
触れれば触れるほど。ふたりの隙間は埋められて、すがりつくことで得られる安堵は、すぐに次の渇望を生む。
可愛く無い口から出るのは否定と拒絶の言葉ばかり。……日常では言えない、抵抗の言ばかり。
こんな反旗で、まさか本気で見限られるようなことにはならないだろう、というくらいには自惚れている。
けれど他に、私は赤城さんを困らせる手段を知らない。
……そうね、
………は……え………?
そうこうしているうちに赤城さんの重みがすうっと消えて。
そうして見つめられる、意図して作っているのが厭という程わかる、ガラス玉のような瞳。
……あか、ぎさん?
はい。
………あの、
うん?
作っているのがわかる、愉しんでいるだろうとはもっとあからさまに、
触れられてはいないのに肌で感じる、焼け付く視線は心地良いのに、当然のようにどうしようもなくもどかしい。
……つ、づけて、くださいっ
どういう風に?
とうとう赤城さんの口角が、にいと笑みの形をつくった。
呼べば応えてくれるなら。縋れば与えて、くれるならば。
それだけの関係に甘んじていられるならきっとこうなることはなかった、嗜虐と被虐で、空手形に尋問、愛玩と哀願、
っは、……ぁあああ!!
っ!!
与えられ切る幸福を、得てしまっていいのかと怯える心が、身体の多幸感を強引に断ち切った。
ぜいぜいと喘ぐ中で呼ばれる名前に必死で答えれば、今度は作り物ではない、さっきよりよっぽど澄んだ色のガラス玉がふたつ。
まだ、
…ん、……ぁ、……や、
……だめ?
……んぅっ、……んんっ!
赤城さんにこうされるのは嫌ではないのだと、せめて告げたくて振った首はあなたのすぐ間近でがさりはさりと音を立てる。
私だって。……わたし、だって。
……や、……ん、
…どうして?
……だ、…って、
わたしだって。
瑞鶴以外のことで怒ることだってあるし、加賀さんに対しての嫉妬すら、時にはしてしまう。
私が原因で、そして解決の手段となれるものなら全身全霊で励むけれど、世界はそれだけで出来てなんていないのですから。
自分がどうかしてどうにかなるものではなく、ましてや赤城さんに言ってもどうしようもないことなら、口を噤んでしまうのが、最も害のないやり方でしょう?
……あかぎさん、
…うん。
返答とともに秘部に吸いつかれ、大袈裟に仰け反ることを辛うじて耐えた肢体は、ぎしぎしと厭な音を立てて私の奮戦を嘲笑う。
さっさと理性を手放してしまえば良いと、そう嗤う意識こそが理性の切れ端であるならば、赤城さんをも巻き込み兼ねない悪魔の牙は、私だけが苛まれていればいい。
きゅうっと収縮した膣が赤城さんを欲しがって、たらりと蜜を垂らしたのを感じながら愛しいひとのつむじを見つめる。
これだけで、満足できる娘でいられれば良かったのに。
聡い赤城さんは私の不躾な熱視線に直ぐに気づいてくれて、目を合わせてくれて。
さっきの無機質な視線とは、何もかもが異なるあまさが一瞬、赤城さんの瞳の中で春の嵐のように巻き上がってばちりとはじけた。
いっしょに少しだけ爆ぜた余韻の中で啜られて、びくりと震えた腿が赤城さんの顔を挟みつけてしまった。
…しょ、うかく、
……や、です。
告げたってどうしようも無いことは、赤城さんが知っている必要なんてない。
赤城さんの全てがほしいわけでは無いのですから。
ですから。赤城さんの負担になるようなことまで、どうか私から暴こうとしないでくださいませんか。
……はぁ、
…ん、
……っ――ああっ!!
……ね、しょうかく。
んぁっ! あ、…ぁ、……ふ、っ、
…あか、…ぎさ、……な、……ですか?
どうしたの、きょうは。
……んでも、…な……
最優秀武勲を獲られた加賀さんの横顔を満足気に眺める赤城さんの笑みは、私には色々な意味で毒でした。
どうやら今日は吐露するまで解放はしてくれそうにないとわかってはいても、もみくちゃにされて弄ばれきりかけている掠れかけの理性が、それでも摩耗して切り刻まれきってしまうまでは。
本当のことなんて、口に出せようはずも無いから、性感帯を触れられることや達することがただの愛情の交歓となりはしない日は、またひとつカウントを増やす。
つづけてほしいの?
っは、…っ、……ぁっ!
ほら、
心底たのしそうに笑う赤城さんが、先の私のトリガーを引いた姿と少しだけ重なって、最後の理性が崩落する音が遠くで聞こえた。
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