忘れるなんてとんでもない!(瑞鶴×加賀)







鳴き声が聞きたいの。
どうしようもないくらい、耳に残るやつを。


ふぁっ、……あっ、……あ!

…ん、…ふ、

……ぁっ! やっぁ、…っ、
………は、…はーっ、


かがさん、と呼べば、いやいやと首を振られる。
ほんの一時間前には、承諾してくれたのに。
それとこれとは話が別って、わたしだって知ってるけど。
明日からしばらくわたしは南方で帰って来れないって、加賀さんは秘書艦にあたってるから離れ離れだって、加賀さんだってわかってるはず。
別に洋上で加賀さんの艶姿を思い出して悶えたいわけじゃなくってさ。いざっていうときに頑張れるとっときの切り札で、普段の力を安定して出力してくれる魔法、どっちもあわせもったお守りみたいなものが欲しいってだけ。
明日の朝には出立だから。きょうもあんまり遅くまでは睦み合えない。
お互い了解してるからこそのピッチはいつもよりだいぶ早くて、加賀さんはしばらく前からずっと高みに追い詰められて、最後を欲しがりながらわたしをはやく満足させようと、ふるふる、空気までを震わせている。


……ん!! …あ!!

っ!!


わたしの方が先に、いってしまうところだった。
目の前の果実にむしゃぶりつけば更にあがるトーン、苦しげに揺れる肢体、
仕方無いわね、と、やさしく潤む瞳。
すき、って、言ってしまったらたぶんきょうはそこで終わってしまう。
だから荒い息とあなたの名前しかこぼせないわたしの代わりに鳴いてください。
全身に染み込んで、思い出すなんて手間すら省けるくらいに。







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天つ風よ





白いシーツ。浜辺の波音。ここまでは届かないそれは、蝉の泣き叫ぶ音と相まって磔にされたわたしの耳の奥に反響する。
結果に後悔はしていない。あのひとの死を防げ、あの戦の黒星を回避したのだから。
戦場がああなってしまえば、もうああするしかなかった。それくらいは提督にだって秘書艦にだって、僚友たる空母の皆だってわかっているだろう。
けれど、で繋ぐ悔悟がひとつ。
もう、持ち上げることもできない腕が幻肢痛を覚えて、それをどこか遠いところで認識するわたしの脳が、まだこのまま引退なんかしてたまるかと吠えた。
可能ならば頭脳班にまわりたいけれど、飯炊き女でも掃除婦でも、なんでもやってやる。艤装をもう身につけずとも良いのなら資源を食う心配は無いし、裏切ることも反目されることもおよそ考えられない、いっそ都合の良い裏方くらいなら、この片輪にもまだこなすことはできるだろう。
艤装さえ身につけていれば首を吹き飛ばされでもしない限りは修復できる、なんて常識を、いまだに額面通りに受け取っていた提督のあの間抜け面は引っぱたいて処分されるにも勿体無い種の低俗さ加減だったが、幸運にも彼の覚えが多少なりともあれば、わたしは、秘書艦補佐くらいの位置にはつけるだろう。
ぬるいシーツの上で、わたしは。可能性でしか予測できないことばかりを考える。
赤城さんより提督より何より、真っ先に泣いて、それから怒って、感じている痛みすべてを吹き飛ばす勢いで抱きしめてくれた瑞鶴が提示した、いちばん容易い身の振りようについてはわたしは見ない振りをした。
前線どころか軍属ですらなくなってなお彼女に愛されるくらいなら、舌を噛んで死んでしまった方がマシだった。
真っ白な遺書には、きっと、あなたのことが一番多く書かれるのだとわかっていても。







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