明日まで地続き(瑞鶴と赤城/瑞加賀、赤翔)







……あ、これ、


赤城さんがそう言って指差したのは金平糖、……の隣にある地味な干菓子。
つい見やって、思わずどきりとしたわたしに。
さっきまでそれに向かっていた指先があかいくちびるに当てられて、いたずらっぽい眼を向けられて、わたしは余計にどぎまぎしてしまった。
浮気じゃない。気持ちは浮ついてるけど、赤城さんにそんな思いなんて持てるはずがない。
だっていまばかみたいに胸が高鳴っている、その原因は。


これ、好きでしょう?

……そうですね

買っていってあげたら?

……赤城さんが買って行った方が喜ぶんじゃないですか。

そう?

…ええ。
……それに、

ん?


ふんふんと、わたしに対して物凄くたのしそうな表情を崩さないまま。
疑問形ばっかりでわたしを追い詰めていく赤城さんはひどい先輩だ。
空母としては尊敬してるけど、戦闘でも戦略でもまだまだ勝てないけど。
そういう面でない部分で、こうやって一緒に買い物に出たり、外でも人目を気にせず思いっきり食べる赤城さんに思いっきりため息を吐いてみたり、帰り際の寄り道でこうして少しばかりバツの悪い告白をする羽目になってしまったり、できるようになったのは嬉しい反面少しだけ複雑。
翔鶴姉のことが、すっごく大好きで大切で、笑っていて欲しい、笑っていてくれて嬉しいと思えば思う程、目の前の赤城さんになんともいえない嫉妬を抱いてしまうのと同じ理由と原因で出来てるから。
それは勿論、加賀さんと赤城さんの関係に対してだって。


……翔鶴姉へのお土産は、わたしが買っちゃったのに

いいのよ。それは、


かさかさと音の鳴る紙袋をぎゅっと握り締めたわたしに、さっきぽってりとした大人の唇を見せつけてくれたときと同じくらいに愉快そうな笑い声。


…なんで、ですか。


そんな赤城さんにこうやって聞いてしまえるようになったこと自体は、嫌では無いのだ。本当に。
前日午後から非番だったはずの翔鶴姉が昼間に物凄く眠たそうな様子でいたときとか、更には一緒に入ったお風呂であからさまな痕跡を発見してしまったときとか、……そんなときだって。赤城さんのことが嫌いだって、赤城さんとのことが嫌だって感じるわけではけして、無いのに。


だって翔鶴、
わたしが食べ物をあげると、物凄く微妙そうな顔をするのよ

……ええー……

自分の身を削ってあげてるとでも思ってるんじゃないかしら

…ぷっ、

それよりは、
「瑞鶴に貰ったんです」ってすごく嬉しそうに言われながら、一緒に食べる方がいいと思わない?


言い切る赤城さんは、同時に落雁をわたしにぎゅうっと押し付けてきて。
ちょっと、これ、トレイが変形したらどうするんですか。責任持って買い取らなきゃいけなくなりますし、わたし、そんなひしゃげたお土産もって加賀さんのところ行きたくないですよ。


……結局食べるんですか

そのほうが翔鶴が喜ぶから。

…ご馳走様です。

どういたしまして?


褒めてない。ついでにいうなら、感謝もしてない。
空母娘の馬鹿力によって商店街の出張店舗に迷惑をかける前に、とっとと白旗を振っておくことにする。
ついでといわんばかりに手に収めた金平糖の小箱はふたつ。味は一緒な、暖色と寒色がひとつずつ。


……お昼ご飯のお礼ですから

ん?


いやまあこの時期に落雁だけ買ってく小娘ってどんなだよ、とも思うし。団子の類がなかったせいと自分に言い訳したところでその微妙な恥ずかしさは消えてくれないわけだし。
まーでもどうせ今日生菓子買っても加賀さん帰ってくる前に痛ませちゃうし、何よりお昼の丼は正直おいしかったし、赤城さんにそそのかされて買ってきちゃいました、っていうと絶対に一瞬すごく嬉しそうな顔をして、それからわたしと赤城さん両方に嫉妬してるような、それからそれを恥じるような表情をまぜこぜにしてわたしの眼前で目を伏せてくれるだろう加賀さんのこと、楽しみにしてないわけでも、ないですし。


はい。

…あら、

翔鶴姉と一緒に食べてくださいね

……意地悪ねえ。

はい、意地悪です。


赤にピンクに橙、黄色まで混ざった金平糖の入った袋を揺らして、ふんわりとわらう赤城さんをこうして見られるようになったのが、すっごくうれしいと思ってるのも、本当ですし。


ご馳走様。

どういたしまして?


あーでもきっと赤城さんが9割方食べちゃうんだろうなあ、っていうかこのひと飴玉に対してがりがり音を立てて噛んでる以外の姿が想像できないんだけど大丈夫なんだろうか、加賀さんも結構齧っちゃう方だしなあ、加賀さんか翔鶴姉に聞いてみれば本人に聞くより確実にわかるんだろうけど、うーん微妙。
まぁいっか。おいしく食べてもらえることには違い無いだろうし。


はやく帰ってくるといいわね

そうですねえ


のんびりと夕日の中で帰り道をたどる先に、今日、翔鶴姉は何もなければ帰投してるはずだけど加賀さんは居ない。居たらいっそ大事件、作戦失敗の可能性くらいしか考えられないから、勿論、居なくていい。
少しくらい寝かせた方が、よりいっそ良くなるものだってあるんだもんね。
こうしてそんな強がりを吐けるようになったわたしの隣に、こんな風にやさしく笑えるようになった赤城さんがいてくれることは、ある意味ですっごい平和の証だよなあ、なんて。
それを勝ち取ったわたしたちは、手をつなぐことも、視線を交わすことも無いままぼんやりと考えてみたりする。
考えてみれたりしてしまうのだ。ざまあみろ。





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