過去も未来も






こうしてふたりっきりなのは、久しぶりだった。
翔鶴姉は入渠ではないお風呂に入りに行っている。赤城さんは「ちょっとした用」とかで提督さんに呼ばれてしまった。
この間空母寮の皆でやって余した花火(飛龍さんたちに押し付けられたともいう)を、せっかくだから4人で消化しようかという話がほんの少し延長されたがための、ふたりっきり。
加賀さんにくっついて座っていることや、待っているふたりが来たらすぐに切り上げられることが大事だったからふたりでバラエティをぼうっと見ていたら、ぷつっと画面が切り替わった。
あれ、今日訓練か何かあったっけ。頭の端で思っていたら映ったのは随分と予想外のイキモノ。
たとえそれが鋼鉄の塊であったところで、「軍艦」と呼ばれることはなかったとしたって。
やっぱりどうしても自分たちと切り離すことの出来ない存在に見蕩れれば、(現代の技術って凄い、)歓声と共に降って来た名前は吃驚するくらい慣れ親しんだもの。
……肌越しに感じられるくらい近くの加賀さんが硬直していたから、逆に冷静になれた。


かーがさん、

……な、に、

ふふっ、おめでとうございます

……ありがとう、……でいいのかしら?

さあ?

…あのね、

瑞鶴が言いたいから言ったんです。


だから返事は、加賀さんが言いたいものでいいんです。
ちゅっと音を立てて一瞬だけキスをしたら、もう一度パノラマ大画面に向き直る。
全通甲板、だとか。ヘリ搭載だとか二番艦だとか、総工費とか。
告げられていく色々な情報は、私たちからずっと遠い内地の、鎮守府とは呼ばれていない施設から中継されていて、
私たちが私たちでいるのと同じように、「そういうもの」として存在している護衛艦は、ただきらきらと、勇ましく胸を張っていて。
それがわかる程度には私たちは艦だし、喜んでいる人たちに同調できる程度には私たちはヒトだ。
それがこんなにもうれしいって、となりの加賀さんに告げる方法を、私はあまり多くは知らない。


大丈夫ですよ、
……だって私も加賀さんも、ここにいるでしょう?

……ええ、そうね。


ことばで伝えるのは一番難しくって不確定で、そして苦手。
だけど談話室でこれ以上に距離を縮めたら、きっと加賀さんは反射で拒絶してしまうだろう。
その反応には、私よりも加賀さんの方がダメージを受けてしまうだろうから。


だいじょうぶ、ですよ

……ええ。


すいっと、私の首元に加賀さんの唇が落ちて。
本当はもたれ掛かったりしたかったのかもしれない、キスやその先を、求めていたのだったらとてもうれしい。
こうやって、この衝動をヒトとしてのモノに落とし込んでいく作業はとてもおろかですっごくばからしくって、だからことばにしてしまうと、とても陳腐で。
でも、だからこそ。ほかの皆だって、同じようにするに違い無いから。
私はその中で、私にしか出来ないだろうことをもう一度だけ、ほんの少しだけ。
ぷつっと臨時中継が途切れて元のバラエティに戻ったのが耳を通り抜けていく音からわかったけれど、ソファで真横を向いた私は彼女の唇を堪能することを勿論優先した。









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「かが」、進水おめでとう。
願わくば、あなたに平穏な年月が降りかからんことを。










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