奪われはしない






そこに、置いておいてくれる?


自分の声は、思いのほか静謐に響いた。


左腕で押さえつけた存在が、ぴくりと動いたのを素肌で感じる。
あからさまな露出はまだ殆ど無く、けれどだからこそ逆に卑猥になっているのかもしれない着衣の乱れは、こちらからは逆光となっている彼女にはとてもよく見えているに違い無い。
鮮烈に、もしかしたら悪夢のように。息を呑んだ彼女がいるのは確かにうつつであるから、見せるのは平常の笑顔。
あなたに見せる陶酔の表情など、晒すわけが無いのですから安心してください。赤城さん。


っ……!


ばさり、のあとにばたりと鳴って、再び訪れた暗闇に慣れる前にぱたぱたと忙しない足音が遠ざかった、その余韻もいい加減に消え去った頃。
噛み付かれ直した胸元は、じんじんと淡い熱を持つ。
そのまま、鎖骨まで喰い破る勢いで噛んでくださっても構いませんでしたのに。
拘束は抱擁となり、やがて哀願となる。
弱々しく縋るよりは抱き潰す勢いで背を抱く方が、赤城さんは嬉しいらしい。
けれどけして強くし過ぎてはいけない。このひとが動くための隙間を空けて回す腕は、なにか途方もなく儚く大切なものを抱えているようで、赤城さんの吐息や香りと相まって途方もなく幸福な気持ちにさせられるのだ。


……うれしかった、

………え?

あなたに、強く抱きしめられて。


そう呟く赤城さんは、興奮のためだけでは無く、間違いなくその頬を赤く染めてくれているだろうに!
それをみることはどうしてだって叶わない位置にあなたはいて、そうして弾んだ息を私の素肌に埋めてくれているから、私はついもう一度きゅうと強めにあなたを抱え込んだりしてみてしまう。
あなたはそれに、それはひどく嬉しそうに喉を鳴らして歓んでくれたので。
あなたの前でしか見せないけれどあなたが見ていないからこそ見せられる素顔を、私は真っ暗闇の第三倉庫の中で無警戒かつ無防備に晒してしまった。


……ん、


あなたに届いたのはあなたではほどけないほどに強まった抱擁と、満足ばかりが溶けた吐息。









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