灯油缶は来週末(なちぼの)






「ただいま」

「おかえり」


面倒だったからエプロンのまま出たあたしに、一瞬目を止めた那智はそのまま顎をとって口付けてきた。
たぶん、どこを掴もうか考えた。部屋着に襟がついてたらそれを取られただろう。
夏場みたいに頬を包むようにするには、もうずいぶん寒くなってきてしまったから。


「いい加減、手袋すれば?」

「そうだな。」

「いつから?」

「来週」


はいはい、の代わりに触れるだけのをもうひとつ。
あたしからしてしまえば今晩の茶番はお仕舞いで、一番弱くしてあった火の調整と煮込み具合を見に、あたしはそろそろ戻らなくちゃならない。
ふたりしてくるりと背を向けるタイミングまでがいやなくらいに揃ってしまって、流石にそれは珍しかったからふたりして変な具合にツボにハマって、玄関口と台所で気味の悪い押しつぶされたような音声がくつくつと生まれた。


「先に着替えるぞ」

「んー」


さっき背伸びしたとき、微妙に違和感のあった足先をスリッパの中でぴこぴこさせながらの生返事は、煮魚の湯気に隠れて消えた。









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