希(こいねが)う(赤翔)






くすりと笑われてしまったら、私はもうその檻から逃れられない。

捉えどころの無い人だと思っていた。
戦闘に関しては筋が通っているどころか何よりも誰よりも頼りになる司令塔で、大黒柱で、
けれどそれ以外のところでは欠落しているものがとても多い人だと、どこか後暗い優越感さえを芽生えさせては日陰でそれを育てていた。
貴女とは違う、吹けば飛ぶような矜持。
そう思い込んでいた私の見当違いをとうのご本人が、赤城さんが笑い飛ばした日が、私たちの関係性が決定的に形作られた日になったのだった。


――、―――、


息を詰めさえしなければやがて、通り過ぎてしまう。
もちろんそんな真似をこの人がそうそう許すはずもなく、私は始終息を詰まらせては鼻にかかった喘ぎを漏らす、よく出来た人形のような様態を晒すことになる。
糸を手繰る貴女に都合の良い木偶であれるなら、いっそそれでもよかったけれど。
私の見当違いを自嘲という名の吐息でご自分の矜持ごと吹き飛ばしてしまった赤城さんは、貴女の前に傅(かしず)く私に、そんな楽をすることすら、許してくれない。


…あかぎさん、

―――、……――!


縋る瞳が垣間見えたから、咄嗟にそれを胸元に押し付ける。
何もかもが一番でなくとも、皆、きっと貴女について行く。
そう言ってあげられればこの人を僅かなりとも楽にできると、同時に植え付けた絶望の糸を私が持つことすらできると、わかっていてなお、私は今の貴女を失うのが惜しい。
捉える必要など無かった。掌中に勝手に落ちてきた貴女が、きっと自分こそが囚われたがっている檻を作るのを悠長に、待つ余裕ならいつだってあるというのに。
私は貴女に腕力を誇示することも、艤装の能力を誇ることも、舌戦で叩き潰すことすらできない。

この人の弱さを、受け止められる強さが欲しい。








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