おんなのこの適正体重






かがさん、つかれたぁ

……そう


この子の嘘を咎めないのは、紛うことなくわたしのためだ。

もたれかかって来ているようにみせかけて、ずっしりと体重をのせてこられているから、身動きが取りにくいことこの上ない。
重心をすこし左手側にかたむけて、とささやけばぐずるようにまた一段増えた重みが、ずるっといきかけたところで慌てて軌道修正される。
いまの彼女は、べつにわたしに抱えられなくても帰れるし、ひとりでふらつきもせずに歩けるのだ。
あれだけひっきりなしに弓を射っていたのだから疲れているのは本当だろうけれど。
せいぜいが弓矢に甲板を持って欲しいとか(両手いっぱいに抱える持ち方をしてやれば、最後艤装室のドアを開けてくれるついでにキスしてくれるのは私にとってもご褒美でお気に入りだ)、湯上りにタオル持って待ってて欲しいとか(これはどちらかというとそのあとのドライヤーがメイン)、いまはそういう甘え方をすべきで、それなのにあえてそうしないときの彼女は、こころの方を、少しだけ余分に疲れさせている。
今日の対空演習(指導する方)の中で、いったい何が引き金になったのか。
自分の任務が長引き、最後の方しか見られなかったわたしには残念ながらわからない。あとで参加していた駆逐艦に聞いてみようか。ちらりと思ったけれど、わたしが話しかけて望む回答が得られるくらいに意思疎通の図れそうな子がいなさそうだったので諦める。
昔は底意地の悪さと同じくらい、諦めとは無縁だったのに。


……った


遠慮なしにずべずべと引きずっていたら、どこかぶつけたのか荷物が動いて小さな抗議。
いまの貴女なら回避できるでしょう。それさえ億劫だというのなら、担がれたいですと甘えてきなさい。


……お腹すいたなあ

そう、よかったわ。


瑞鶴が本当に疲弊しているとき、彼女はとてもとても軽くなる。
たくさん食べてたくさん眠って、……そして様々な幸運に恵まれればたくさん貴女と睦み合って。
満たされきっているよりも、空腹でたまらなくって、眠いのか眠くないのかもわからなくって、加賀さんのいない海を睨みつけているときの方が、ずぅっと、安心するんです。
互いに別の部隊に組み入れられ、わたしと長いあいだ離れ離れとなった大規模作戦のあとで瑞鶴がぽつりと漏らした告白は、つい先ほどまで抱き潰されるのでは無いかというくらいに快楽に溺れさせられていたわたしを瞬時に現実に引き戻すほどには重く、それなのに羽のような軽さで彼女自身が吹き飛ばしてしまった。


…へんなの。

わたしもまだ食べてないもの。


お昼にはずっと遅い時間。でもまだ夕餉の支度に手が届いているかも微妙な頃合。
一緒に食べられそうだから良かったわ、と嘘をつけば彼女はわたしの真意までを汲み取った上でにへらと笑う。
騙され合ったんだからおあいこです、と少しだけ荷物の重量が小さくなる。


重いわよ

かがさん、ひどーい、


またイチャついてる、という白い目が同情に近い視線に変わったのはようやく空母用の区画に入ったから。
演習用の艤装なのだからそのまま演習室に置き去りにしてもよかったのにわざわざここまで運んできたのだから、その戸を開けるのも閉め際にキスをするのも荷物側の仕事だ。
どうせ吹けば飛ぶような軽いものにしてくるだろうけど、彼女にねだられる前に髪を乾かす用意くらいならしておいてあげよう。
わたしのためにそう決めて、最後の曲がり角にたどり着いたところで自室に二人分確保しているお昼の献立をとびきりやさしく囁いてあげた。









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