だめなの(瑞鳳×三日月)






わたしのことすきですか、と聞いたら、
きらいなひとにこんなことしないよ、と答えられた。
そういう大人のずるさって、とてもひどいものだと思うのです。

頭を撫でる代わりに額にキスを落としてくること。
唇に唇で触れる代わりに指先でなぞってくること。
好きだよっていう代わりにありがとうって言ってくること。
ずるいなあ、と思う。


三日月、かわいい


少し拗ねてみせれば、わたしよりずっと可愛い顔をして、(そしてそれを隠しながら!)
わたしをぎゅっと抱きしめてくるところ。
幼い顔、低い身体、小さな手足、
わたしとそんなに変わらなさそうなのに全然違う、きりっとした顔、しなやかな身体と手足、戦場ではまっすぐなのに、こんなとき、ふと揺らぐ視線、


あなたを守ります

うん、

あなたを守るためにいるんですから

うん、ありがとう、


ちがう、わたしはあなたを守りたいだけなの。
前世も使命も関係なくて、いまのわたしが、いまのあなたの助けになりたい、だけなの。


あなたが好きです、

うん、ありがとう


これは本当。
さっき嘘をついたときとまったく同じ口調で、瑞鳳さんはわたしを撫でる。









--------------------------------------------------------------------------------------




ごめんね(↑の続き)




付き合っているのかと聞かれれば首肯するし、好きなのかと問い詰められればうんと言うだろう。そこに虚偽が混ざる余地は無いし、誤魔化しをする気もない。
隠してはいないから酒の席なんかには時々からかわれるけれど、とりあわせがとびきりおかしくてアンバランスなことを除けばわたしたちの日々はとても穏やかだ。
荒天や波濤どころか、波風ひとつ立ちはしない、と思ったところで、いちどだけけんかしたっけ、なんて思い出す。
軽空母の皆でかなり飲んで自室に戻ったとき、もうとうに深夜なのに三日月が起きて待っていたりしたからまずわたしが怒って、こんな時間にまで飲んでるなんて駄目ですって三日月も怒って、約束してないでしょとなじればせっかくとった外泊許可を取り消したりしませんと口答えされて。
それでも三日月は寝てなきゃダメな時間だよ、わたしの部屋にいるならそう言ってよというわたしのわがままばかりを結局は通した、そうしてお酒くさいまま着替えもせずそのまま彼女を抱きすくめて眠ったわたしは翌朝でもその次の機会でも、本当は、もっともっと怒られてなきゃいけなかった。

今日はもう寝てしまっている三日月を眺めると、思い浮かぶのはいつだってそんなことばかり。
付き合ってるし、好きだし、さっきまでみたいに彼女の身体には見合わないひどいことも飽きるほどしているし、
会う機会があれば嬉しいと思う。笑ってくれれば、心が温かくなる、気がする。
けんからしいけんかなんて一回しかしたことがなくて、わたしたちに吹く風はいつだってふたりで掲げた帆の味方で。
きゅうと目を閉じて、口元は少しだけとがらせて。
諦めながらも期待している三日月をみると、本当、かわいいな、とおもう。

くちびるを近づけても最近かたまる幅はとてもちいさくなったし、指先で触れてかわいそうなくらいに震えるのもこの頃はとみにみていない。
かわいい、かわいい、ちいさな存在を、そんなものにしてしまったわたし。
もっとほかにいたじゃん、って。
わたしがいちばん思っているくせに、脳裏でわたしを責めるのはいつだって姉や旧友、同僚、先輩、そういったたぐいのまやかし。
実際に窘められたところで、わたしのエゴが満たされてこの子が傷つくだけだというのに、ぼやりぼやりと浮かぶ姿、聞こえる声は、この子のこらえた吐息よりもよほど耳につく。

頭の裏からじわりとにじりよる彼女たちに、しあわせ? と聞かれたら、頷ける自信はない。



















inserted by FC2 system