気づかないで/気づかせないで(葛城×瑞鶴)






まるで行き急がんとしているかのように満開の好意を全力で向けてくる、わたしに恋していてわたしのことを愛しているかわいい女の子に対して、いとおしいより先に覚えてしまう感情を生み出すわたしが憎い。
この身を投げ出す未来はとうに受け入れたのだから、その時点で思考も感情も、まして愛情の存在なんて消し飛ばしてくれればよかったのに。
それらを取り上げる代わりにわたしに与えられたのは、悪い夢を消してくれる(あるいはそれ自体がとびきりの悪夢となる)思い出以外はもうなにも要らないといっているのに更にふやされた「よけいなもの」。
覚えがある、ような気もする、もう夢でしか無いきらめき、憧憬、熱っぽい目線。全部消えないままで触れてくる指先も唇も、もうなんじゅっぺんだかの積み重なりでいい加減わたしが好きなところくらいは覚えた葛城は今日も愚かなくらいやさしい。


ね、……ぇ、

はい。
……ね?

……ん…、


彼女が弱いところを乱暴に攻め立てるような、自身の持つ欲望と優越感と支配欲を叩きつけるような、そんな真似をしてくれるような愚かさを持つ子であれば良かったのに。
そんなことできっこないって。全然知りたくなかったのに、いまでは彼女のことをいちばんよく知っていると言ったっていいくらいになってしまったわたしが適当な声をあげているわたしよりずっとひくい声でわたしをなじる。
知っているでしょう? 葛城がわたしを愛したいわけでも、わたしに優越感を抱きたいわけでも、わたしを支配したいわけでも無いことくらい。


っふ、……は、……ぁ、

ず、いか、…くせんぱ、


はぁはぁと息をついている葛城の、それでも必死で理性を保とうとしているいとけない少女の。
純粋しか無いと呼ぶにはわたしが大人にさせてしまった目の色も、無垢とあらわすにはあまりに厳しく吹きすさび過ぎた荒波が削ったやわらかい頬も。
それらの中に落ちる影に誰も見えないのがわたしにとっての救い。
ようやく終わらせてくれた後にこぼす恨み言がわたししか知らないひとに向かっていないのは、わたしのためでしかないむごさ。


ここ、いいですか、

……っぅ!! …ぁ!


声を出した方が楽だから、そうするし、そうしない。
完全な演技と呼ぶにはけぶるようにこぼれる熱が残酷で、彼女のいろんな意味であまい愛と愛撫に溺れてしまうには彼女個人に帰せない憐憫が邪魔だ。
多少なりとも熱に浮かされているのだから冷徹とまでは言い切れないのに、葛城のやさしさを愛情として受け取ることを慣れた快楽に浸った脳が拒絶する。
しょうがないのだと。でもこれはだめだと。しょうがなくなんてないと否定すればすぐさま次善の慈善で何が悪いのだと。ふらふらと揺れる倫理の糸は、誰によって編みこまれたものだったろうか。


…ん、………かつらぎ、

…はい、……はい…っ!!


ただそれだけで感極まったように潤む瞳の奥に、昔のわたしを見た気がして。
わたしに愛されたくて、わたしに優越感を抱かれたくて、わたしに支配されたかったはずの葛城が憎くて、厭わしくて、ひどく愛おしくて、わたしは目を閉じる。
脳裏に浮かぶのはもちろんわたしでも彼女でもない。ただ、あの人に恋していた頃のわたしも、あなたを愛していたわたしさえも、遠いことがひどく安心して、同時に狂おしいくらい胸が焦げつくのだ。








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