この手は二本しか無いの(高雄×妙高)





目を見開いたら高雄の顔が目前に迫っていた。
今日の逢瀬はそうやってはじまって、そしてそれが全てだった。

どさりという音はどこか遠くに響くのに、一瞬だけ遅れて鈍い痛みが背に走るのは、自己防衛なのか、どうなのか。
わからないものをわからないままにしておくのは私の昔からの防衛手段で、だからこれもそのままでいいと、吐露できるような相手はその実とても限られている。
そのうちの、貴重な相手のひとりは目の前――よりはやや遠くにいるが――で頬を赤くして息を弾ませていて、けれど高雄をそうしたのが私であることに抱く満足と優越感はふたりの幸せと呼んでしまうにはどうにも高雄から遠いところにある、気がする。
どこを取ってみても、たいして変わらない身であるはずなのに。ささやかな差異こそがとても大きい隔たりなのだと。そんなことさえお互いが知っていて、共通認識であったはずなのに。
終わりのための息を大きく吐けば、私の体液で濡れた指を口に含むのはどうやらやめたらしい高雄がその手を私の脇につき、やさしく口付けてくる。そんなに優しくしないでいいわよ、と、告げる日はきっと来ないくせに最近の私はこうされるたびにそう考えてしまっている。


…おつかれ、

……ふふ、ありがとう、


情や憐憫だけでつながっていたのなら、きっとその切れ目が終わりを意味するはずだった。
恋愛ってなあに、と無垢な幼い子にきかれたら、私たちはきっと私たちを指さしたりはしないけれど。お姉ちゃん達は違うのとたずねられたら、首を横に振ることも同様にしないだろう。
どちらも全く同じ感情から出ている答え。私が嘘をつくのは私自身に対してだけで、高雄は誰にも嘘をつかない。
ふ、っと。高雄が首をふって、私に再び覆いかぶさってきた。
思わず身じろぎをしてしまったのは、この回数を重ねた上でそうしてくることが、ひどく珍しかったから。
すっと指先を彼女の腰に這わせてみれば、違うわとばかりによじられて、私の鼻先にキスが落ちる。
そう、やっぱり今日はもう終わりよね。それなら、どうして?
これくらいなら見つめるだけで伝えることができる。愛し合ってるの? と無邪気に聞かれたら、そうねと笑えるくらいには、想い合えている。


……あなたにおいていかれる気がして、


だめよね、あなただけにはそんなこと思わないって思ってたはずなのに。
私、弱くなってるの、ごめんなさい。
弱いことを許されたいのではなく、罰して欲しがって頭を垂れる高雄は、確かにか弱く、そして気高かった。

間違ってない、私は貴女を置き去りにしようとしていた。
私の末妹でも、後輩でも、あるいはちっぽけな護衛艦でも。
いざ私がその気になれば乗ってくれるだろう人は意外にたくさんいて、幸せの軽重をはかるならこと私の天秤に置いてはそれらは、どれを取ってみたって貴女のそれと、そんなに違いは無い計算で。
愚かな計算の方程式を、貴女の末妹なら、怒ってくれるのかしら。他の妹になら、貴女の先輩になら、縁のある艦ならば。貴女を私より幸せにすることが、できるのでしょうか。
きっとどちらも正解なのだろう、真実を、確かめる勇気は今日も私にはありはしない。



















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