金魚草が揺れる(初月×五十鈴)





この子にも、あまい声なんてものが備わっていたのね。
ぐすぐすになるまで抱かれて、声をからした私を前にして。
いや、下にして、かしら、とにかく間近で嬉しそうにゆるんだ顔を隠しもせずに、私の肌を好き勝手に弄っている初月を、好きにさせるということは幸福である一方で存外に余裕がある。
想いは嫌という程こめられているのだけれど、愛撫と呼んでしまうのは些か拙い先ほどまでのそれに、声が涸れるまで喘いでしまったのは私なのだから、彼女の技巧を笑う資格もその気もありはしない。ただ、身体が重いのが、初月の体重と無茶な体勢を強いられたせい以外にあればよかったと、わがままな女が残念に思うだけだ。


…どうした、

んーん、


思いのほか鼻にかかった声が出てしまって、さっきの初月のことを笑えない。
薄闇のなかでこういうふうにじいっと見つめられると、性懲りもなく胸がざわめく。
びいだまのようだ。この頃はよく、そう思う。
ラムネを封じるために備え付けられたあれをいつだったか目にした時にぱっとそう思って、それからはよく、なぜだか金魚鉢の底でころころ転がっている濃い青のガラス玉に紐付けられるかたちで初月の挙動が記憶に刻み込まれていく。
それは、多分に、かたくてつめたくて、どこか、とてもきずつきやすい存在として、この子を見ているからではなかったのか。


……いすず、

…ん、


ようやく気がついたらしい私の渇きにけれども大袈裟に慌てることはせずに、のませて、と目で訴えたわたしに向かってとても正しい解を導いてそれを迷わず与えてくれる、賢く優秀な年下の恋人。


……そんなに胸が好きなの?

いすずだからさ、


移されるときに少しだけ垂れた水を、とても嬉しそうに舐め取って――というよりは中々引かない汗と一緒に塗り伸ばしていたような初月は、次はもう既にバカみたいな数をつけられている鬱血痕を更になお増やそうとしている。
あなたも飽きないわねえ。くつりと零れたのは自嘲だ。
告白されて、求められて、嬉しくなかったわけはなかった。
ただ、そのうちに彼女が満足を得れば、そこで終わるに違い無いと思っていただけだった。
前の生にて刻まれた縁からはじまる付き合いは、よくもわるくもそういうところがある。
続いている先輩たち、のように結ばれる前の期間が長くはなかったから、きっとそのうちダメになる方に分類されるんだろう、そう思うのは殊更おかしくはなかったし、そうあるべきだったのかもしれないとすら思う。
このまま終わりが見えないのは、そろそろ、少しばかりつらい。
このうつくしいびいだまを、自らの手で転がす気の無い私が恨む義理ではないけれど。



















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