届かないで/届かせないで(葛城×瑞鶴)




生まれるのが遅すぎたことを、悔いるのは一度でよかった。
後悔とは、先に続くものであるべきではなかったのか。
あのとき、わたしが運んだのは、そういう希望のきざはしでは、なかったのだろうか。

考えても考えてもキリがないから、こうなってしまったのかもしれない。でも。
そうであればよかったのにと考える私にそうやって言い訳をするのは、もう二度としないと決めたの。
珍しく私より先に睡眠という安寧を得た瑞鶴先輩が、寝言で落とした本音を拾ってしまったあの日からは。


かつ、らぎ、……、
……、…ぁ、……んう、


――好き。
ちゃんと律儀に私の名前だけを呼んでくれるところ。
拒むときはごめんねと言われるし、私が活躍すれば目を細めて褒めてくれるし、
いいところも、だめな理由も、きちんと隠さず伝えてくれる瑞鶴先輩が、まだ手の届くモノでいてくれることに私は今日も感謝している。


……葛城、…いいよ、


けれど最近の瑞鶴先輩は、こんなときに返事をしたら、そこで溶けて消えてしまう気がして。
いつもほとんど声を出さない先輩に、私が頷いたり首を振ったり、目線や指先を使ったりしているこれはセックスでは無く何か別のものじゃないか、そんなことさえが脳裏に浮かぶのを必死で追いやる様を、先輩は微笑ましいものを見守っているかのように、こうやって、笑ったりする。
もう私しかいないけど、私なんて要らないけど、私さえ捨ててはいけない瑞鶴先輩は、代わりに大事に抱えていたものをなくしてしまった。
せっかく瑞鶴先輩が、私のことだけを思ってくれるのに、そんなときに限って私はきまってこの人以外のことに気を取られてしまっている。
こんな、この人の中で最後にたどりつくためにそろそろと指を動かしているときでさえ。

あの人たちは、何度この人を置いていけば気が済むのだろう。
……ついぞ見たこともない、貴女は、いつまでこの人を、縛りつけ捕らえていれば、満足してくれるのだろう。

次に生まれ変わるなら、私にはどんなにひどい目に遭う宿命を負わされてもいいけれど。
瑞鶴先輩は、私の手がとても届かないところで、私の手なんて絶対に届かないくらいに、幸せになってくれなかったら、今度こそ、空ばかりで無く天までを恨んでしまいそう。



















inserted by FC2 system