待宵外れ(翔鶴×赤城)






酷い損傷を受けた、翌日の夜更けだった。


翔鶴さん、


規則正しいノックの音、誰かは知らないけれど夜中に立てることも無かろうと思った矢先にやわらかい声。
たいそう珍しいことに扉は律儀にたたいてきたというのに挨拶はないまま、夜特有の影をたたえた赤城さんはするりとわたしのベッドに近づく。
きしり、控えめに療養用のパイプベッドが軋んだ。


ここを出るのは、明日の夕方ですよね

…そう、ですね。

ならば今晩は、構いませんよね?


二人分の重みをのせただけで音を立てる寝所の上で。
不健全な誘いを不健全極まりない仕草でしてみせた赤城さんは、唇を離したときは既に私よりも粘膜を濡らしていた。


あしたね、翔鶴さんの代わりに出撃するの

…ならば、

いいじゃない、「こんなこと」くらい、

……よくありませんよ、

ヘマなんかしないわよ

そういう、…っは、もんだい、……では、


よっぽどキスがしたいのかあるいは唾が溜まっているのか、恥ずかしいくらいのリップ音が立ち続けている。湧き出てくる、の方が近いのだろうかとぼんやり思う余裕があるのは、あまり、飲まされるというかたちになっていないからだろう。
嫌味ゼロの口調で、眼で、こんなふうに言い切れてしまうのは凄い、と思う。
反射的に謝るよりも、ならばこんなことしちゃダメですと言いかけた私だって大概なのかもしれないが。
頬と耳の後ろと頭頂とを忙しなく行き来させていた手がとうとう寝巻の首元にかかり、するりと潜り込もうとしてくる。
不埒な手を止めるのではなく、私の方が赤城さんの頬から顎に手をやってキツく口付けてみせれば、びくりと反応する瞳と舌の熱がかわいくて、あっさりと跳ね上がった機嫌はもういいのではと陥落を促した。
不意打ちの苦手な赤城さんの手は、私の襟元を握り込む形で掴んだまま。私の右手を赤城さんの首筋にそって落として軽くくすぐる真似をしてみせれば、慌てた彼女は思わずといった風に、私の舌を噛んでしまった。


…っ、

……もう、やめてよ、


こういうとき、謝って来ないところが好き。
どうせ修復材はたっぷりとかけられている。薬液に四六時中浸かっていれば回復が早まるものでは無いから、吸収する手筈さえ整えられてしまえば後はよっぽど暴れたりしない限りは自由の身だ。
それでも皆、経験上なるだけおとなしくしておいた方がドックから出た後の調子が良いと知っている。だから暇を持て余した者たちのために、治療棟には寝室ばかりでなく娯楽小説の揃った図書室や立派なAVルームが備え付けられてさえいる。
それでいて私の場合は大体ベッドしか要らないというのも、ドックから出た後の調子が大抵芳しくないのも、さて一体誰のせいなのでしょう。
ずきずき痛む舌を外気に当てながら首をかしげてみると、さすがに拗ねたようなバツが悪そうな表情が覗いた。
今回の被弾では口の中を切ったりしていないから、この傷は残念ながら修復材の恩恵には預かれない。だからこれ以上痛ませたりしたくないので、今日は、舐めませんよ。


…あした、昼からだから、泊まら

だめですよ、帰ってください

…えぇ! いいじゃない!
……むぐ、


不本意に傷ついた口で塞ぐ代わりに、指を2本。
こっちは噛んでもいいのに、(なにせ右手の先は1本吹き飛びかけた、)さっきの失敗が頭に残っているらしくどうにも赤城さんらしく無い口戯。
いつの間にか私の服からはすっかり手が外れてしまっている。私、自分で脱ぐの、いやなんですけど。
いつまで待ってもいつもみたいな大胆で無謀な愛撫にはなってくれそうになかったから引き抜こうとしたらまた噛まれた。あ、という声が同時に聞こえたからこれもまた予定外だったらしい。珍しい。


……やっぱり、もう帰られた方が、

いやよ。

赤城さんがお帰りに、なって、…ん、…から、でも、

それはそれ、これはこれ、


赤城さんが付着させた唾を自分の指先から舐め取っているうちに。
脇腹近くのあわせから手を差し入れてきた赤城さんは、なんとそこから先、下着の中にまで一挙に侵入しようと試みてきた。
一体何してるんですか。胡乱な目で見上げれば嬉しそうに笑われる。さすがにまだ濡れてませんよ。こんな恥ずかしい場所に怪我らしい怪我も勿論してませんから、痛いのも嫌ですよ。


いいの、このままで、

…よく、ないです、……からっ、

じゃあはやくきて?


……先に欲しいのならさっさと言ってください。
いざ態度に表すときは堂々としてるくせ、かたくなに口に出して誘ったり強請ったりはしてこない赤城さんの、羞恥を覚えるタイミングというのがいまだに私にはわからない。
だから体勢を変えなかったのは、まだ右腕や肋骨が痛むからです。
この方が恥ずかしがって良い反応してくれますよね、なんて考えていませんとも。ええ。



















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