あしたおぼえてなさいよ!(瑞鳳×三日月)





都合の良い幻覚ってついみちゃうことあるじゃない?
戦場のように気を張っている場所では論外だけどさ。ふっとゆるんだすきま、まどろみのなか、あるいはこんな風に残念なくらい酔っ払っちゃってるとき。


……ほんとに、三日月だぁ、

………はい、三日月ですよ、


前後不覚寸前、沈没間際、だけれど自力で帰らなきゃならないからぎりぎり踏みとどまってる。
それくらいの自覚はある。


……なんで来たの、

………呼ばれたからです。

…呼んで無い、

……瑞鳳さんからなんて言ってません、


だから、ゆめみたいって、思ったのよ。
あまい、あまぁい、やきたての、わたしの得意料理みたいに。
勝手にあたたかくなる胸の心地よさに身をゆだねていたら、冷水かけられるんだから怒ったっていいよねえ?


……なにそれ、

……ずいほうさんの方がなにそれですよ!!

………ふえ?

こんなばかなこと、もうやめてください!!


ああ、こんな大声じゃ誰かに気づかれちゃう。
暢気に思う自分は全然それを問題なんかと思ってなくて、いつだって窘めてくるのは三日月の方だったのに。


……ちょっと飲みすぎただけじゃな、ぁい、


ふら、と視界が揺れたところで、あ、まずいな、って思った。
そもそもがむりくり身体を垂直にして、最短距離、最短時間で部屋まで帰ろう、そして布団に倒れ込もうって決めてた矢先、覚悟を決めたほんの数歩先で佇んでた三日月によって阻止されてしまった野望はそれなりに切実な現実から生まれてきていたから、ええと、つまり、そろそろ限界が、


……自覚はあるようで安心しました、


支えますから、帰りますよ。
言い切る三日月の差し入れた手も肩も的確、こんなところまで完璧にエスコートしてくれなくてもいいのに、告げたらまた怒るだろうから含み笑いをするにとどめる。少しだけ漏れた吐息が我ながら相当酒臭くて、あーやっちゃったなぁ、やっぱり暢気に考えてる自分はホント、救えない酔っ払い。


かえらないでよ、

……帰りませんよ。

…え、


……ホントに?
さらりと、というにはあまりに逡巡があったけれどそれでもきっぱりと返された応えに、息が止まるかと思った。
おそらくはそっと下ろそうとしてくれてたんだろう腕から逃れて、布団にごろり、倒れ込んで
。降ってくるだろう生真面目な謝罪に対して、ごめんねえ、おやすみって告げるための喉がひくりと嫌な音を立てる。や、いや、お酒にまつわる惨事じゃなくってね!?


外泊許可は、

とってきましたから!!


これまでは、いくら頼んでも私からやっとくって言ってもかたくなに固辞して消灯ぎりぎりには帰ってた三日月は、真っ赤になりながら私にまくし立てる。
……うん、これは怒っていい。そんなことより、もっとはやく、私に言ってくれて良い。
みんなにロリ体型だ童顔だとからかわれるけど三日月と並ぶとやっぱり自分の嘘臭さは一目瞭然、今日もそれをたっぷりとネタにされて次々に注がれた杯の中身は嫌味としか思えないくらい千差万別、つまりはひどいちゃんぽんをやらかした私の鼓膜と脳にきーんと響く声。叫び。
……三日月の、とても珍しい自己主張。


……そっかぁ、

……瑞鳳さんのばか。


よっぱらい。うん。あんまりです。うん、ごめんね、待たせたね。
今日はこのまま、抱きしめて眠っていいかな。
着替えさせてくださいという小さな声が聞こえたけど、ごめんねそれは聞いてあげられない。


……もったいないなぁ、

………知ってて行ったんじゃないんですか、

……え?

………じゃあ、いいです。


おやすみなさい。
ちょっと待ってそれは聞いてない。そういえばさすがにまだはやいとかあんまりかわいそうなことはしたくないとかガンガンに注がれながらちらりと聞こえたような記憶もあるようなないような。
ごめんとっくに手は出しちゃってるのよ? って、言っておけば、今日、怒られずに済んだのかなぁ。
それでもっとしあわせな時間の過ごし方、できたのかなぁ。
手遊びがみつけた三日月の髪紐が知らない感触で、ただでさえ聞かない夜目をちょっとがんばって見開いたらすごくかわいいリボンだった。あー、そういわれてみればいつもとは違ういいにおいする……如月ちゃんのかなぁ……服はいつものだったけど、……この下、気になるから脱がせていいかなぁ……
たまらずちゅうっと髪にくちづけたら、お酒臭いですと胸元で小さく抗議されたから諦めました。


















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