月の数を数えて(萩風と舞風)





秋だったと思うのだ。
それなのに、蝉がひどく鳴いていた気がする。
コートを着ていても耐え難い程、雪が積もっていた気がする。
桜吹雪が舞った、ビニールシートの後片付けを、野分と一緒に黙々とした、気がする。
わたしがこの鎮守府に来てから、もう2回程、季節はまわった。

空母護衛として、輸送隊として、過去をなぞりながら過去よりずっとやわらかなからだで、やわらかな任務をこなしているうちに、2年はあっという間に過ぎた。

あの頃、待ち望んだ秋月型はわたしが着任したときにはすでにいた。
それなのに、礼儀正しく、わたしを先輩として扱ってくるのだからむず痒く、は痒くて、けれど怒ったり諌めたりなんて、できるはずもなくて。
逃げ込んだ先、あの頃、圧倒的な格差があったはずの護衛対象、空母の皆様はいつの間にか頭に正規なんて名前がついていて、そしておんなじ身体を持つようになっていた。
縁を口実にいちばんお世話になった加賀さんはこの2年で相対的に、絶対的な王者一航戦ではなくなった。
口では厳しいことばかりいうけれど、その表情も、声音も、その言葉遣いに見合ってなんか全然いなくって。
思わずゆるんだ頬と一緒に、目線を少しあげたところでみつけた、加賀さんの表情なんか、更にその上を行く、とても、……とても。
わたしのためには、きっと、見せてくれることのないその感情は、わたしが見るには、眩しすぎた。
――好きです。加賀さん。
……赤城さんと、同じくらい。


「言ったの? 言っちゃったの?」

「……言ってないわよ」

「なぁんだ」

けたけたと笑う舞風は、いつだって春の気配を纏っている、気がする。
野分は冬。嵐は夏。そうなるとわたしが秋になるのかしら。
どんなに辛くても笑顔で待っている金色、どんなに厳しい状況でも、ひたりと前を見つめる灰色、いつだってからっと燃えている、愛しい相棒。ねえ、あなたたちなら、わたしのことは、どう表現してくれる?
恥ずかしい告白に恥ずかしいの上塗りをする気にはなれなかったから、ふっと首を振ってしようのない妄想を追い払う。最近憧れの嚮導艦と恋仲になれたらしい目の前の彼女は、ことあるごとにわたしのことを心配してくるようになった。
拗れに拗れてるあなたの相方をどうにかしなさいよ。そう言ったのは誓って一回や二回じゃない。けれど「あれはもう外からじゃどうにもならないってー」そういってばっさり切り捨てる舞風の瞳が、想像もしてなかったくらい大人のものになっていたから、ああ恋を実らせるとはこういうことなのかとわたしは少しどころではなく感動してしまった。
わたしの恋はいいの。……いいのよ。

「仲良し四駆が、幸せ四駆になれたらいいのにねぇ」

「……無理でしょ」

だってそもそも、両立しない、願いじゃない。
ひどいなあと笑う舞風は当たり前みたいに、いつもの笑顔。
……いつからか、一番の特別を、わたしたちに見せることはなくなった彼女らしい、ほんの少し大人びて、つま先立ちをしなくてもくるりと回らなくてもそれを纏うことができるようになった少女の、表情。
あのとき加賀さんを見上げたわたしが浮かべていたはずもなく、けれどこれが欲しかったというにはずいぶん違う気がする、蝉の声も堪える寒さも、春の陽気も、ぜんぶあったはずなのになんにもなかったように思う、……そうだ、あの日は、月がよく見えた。
十五夜、ではないのよね。加賀さんは苦笑して、それからわたしに小皿にのったお団子をくれたっけ。
この時間に見えるのが満月じゃおかしいですね。まぜっかえしたわたしを、目を細めて見つめた加賀さんがわたしの向こう側に何をみていたのか。知ろうとしないわたしには端から得られるはずもない幸せが、ここにはこんなにも咲き舞っている。

















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