注ぐのは愛(Graf×赤城)
赤城の部屋でするのは大概拒絶されるから、今日の申し出は正直意外だった。
同室の加賀が不在であることも、隣室の軽空母が遠征に行っていることも、わたしは知らなかったし、また、そうであるなら赤城が自分の部屋ですることを許すということも知らなかった。
それもまだ日のあるうちから、驚くべきことに最初から敷かれていた布団にもつれ込むように倒れ込まされるなど、まるで想像の域を超えていたといっていい。
純和風である部屋は多くない。何段か積み重なったベッドで寝ることを常としているその他大多数の身からすれば、毎日仕舞ったり出したりしなければならない煩わしさなど知りたくもなかったが、わたしは今日ひとつ、ついにこのシステムにひとつめの大きな長所を見出した。
赤城のような者が、セックスをするためにわざわざ布団を敷いてわたしを出迎えてくるというのは、ものすごい破壊力がある。
…だめ……っ
なぜ?
やぅ、…ぁ、……んふっ、……あ! だっ…め!!
こたえになって、…ないな、
――っ!! やだぁっ!!
やだというのは苦しいから。
彼女が本当に拒絶をするときのやり方はとうに覚えたから、安心して継続できる。
わたしなどの愛情に溺れてくれるなら、いくらでも注いでやろう。
きゅっと秘豆を潰せば、あっという間に仰け反った肢体が、硬直とともにあっさりと軽く極みに達する。
弱いとわかっているところを、こうされることをわかっていて、覚悟するための空白の一瞬でわたしを咎めてきたのに、いつものことながら興奮する。陶酔とともに軽くゆすれば、シーツをきつく掴んでいた指先の形が変わった。
あかぎ、……あかぎ?
ふっ、……ぁあああ!!
ああ、高い方の涯てに、至ってしまったか。
気持ちいいことが好きなくせに、乱暴にしても強引に迫っても、ちっとも濡れなどしないくせに。
…こら、……あかぎ、
はぁっ、はっ、…はっ、は……はっ…
与えられる上限値を与え続ければ許容量をあっさり超えて、喘ぎ狂う赤城は、そんな身体をしておきながら手加減をすると途端、非難する目を向けてくる。
狂乱そのものの喘ぎ声の狭間に。焦点すらろくに合わないような痴態を晒しておきながら、じっとりと見つめられ、詰ってくるのだ。
わたしの不足がいまをつくっていると、言わんばかりの視線。
……わたしは優しくしたいんだ、赤城、
……ふっ、……だっ、…めですよ、それは、
だってまだ、グラーフさん、ずぅっと日本語じゃないですか。
……そんなくだらないことで確かめていたのか? わたしの本気を?
っひ!? っあぁっ!!
なるほど、それならば今日はもう甘い言葉を吐くのはよしとしようか。
なに、別のところから、わたしの全力を、全身で感じてくれればいい。
ぐっと入口を親指の腹で回せば、息を呑む音とともに、赤城の両の目からじわりと涙がにじむ。さっきまで焦点を結んでいなかった視線はしっかりわたしの指、自分の恥部を捉えている。
元気そうでなによりだ。ならば休憩は、今回は無しでいいな?
…だ、だめっ、……ぐらーふさっ、…っや、……っ!!
まだ、さんづけのままの貴女に応えを囁いてやるのは、何語であろうとするつもりは無い。
しかし、まあそうか、ここまで性急に求めてしまったのはなかなか無かったから、いい加減道着や襷で身動きが制限されているのは辛そうだな。すまなかった。
…や、やだ、……ひっ、……やぁ、
襷をほどき、片腕ずつ持ち上げながら袖を抜かせようと赤城の右手に手をかければ、予想外の抵抗に遭う。
あいにくわたしはいま、箝口令とやらを実施中につきキス以外でこの唇を使う気はないが、どうした?
不便な拘束は、貴女の意に沿うものではないだろう?
…じ、らさ、……ない、で、
……ああ、
それはすまないことをした。
……しかし赤城、貴女はさっき思いっきり一回逝ってなかっただろうか。普通はそこで一旦満足するものではないだろうか。その表情まで含めものすごい破壊力を有した懇願ではあったが、さりとてわたしは貴女が一番気持ちいいように全力で注ぎたいのだが、……難しいな。
むずがるように抵抗されては流石に成人女性の服を脱がせるのは難易度が高い。あまりに苦しがっていいならいいかと思い、次いで次の絶頂で高く高く飛ばしてしまえばその隙に脱がせられるかと思い至って、……苦笑する。
っ、……も、……ぐら、ふ、……は、やく……
それ、に、どうやら羞恥だけではなく僅かな怒りも覚えたらしい赤城は、けれど舌っ足らずにわたしの名を呼んで、とびきりの表情で甘えてきてみせたから。
……ん。あかぎ。……あいしてるよ、
さきほどつい漏れた感嘆といい、日本語の方が違和感がなくなってきている自分にもう一度自嘲してしまうと、このお姫様の機嫌が本当に悪くなってしまいそうだ。
まあ、この囁きには大概、ほぼ一発で可愛く爆ぜてくれると知っているのもあるが。
ばっ、……やだっ! や、……!!
苦しい原因が、溺れそうだから、に戻ったから。わたしも安心して赤城に唇を寄せた。
ほら、そんなだから布地の縒れに阻まれてわたしまで手が届かないんだ。小一時間後にはきっちり脱がせてやるから安心しろ。
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