鯨よりも鷲(Graf×赤城)





終わったあと、まだたっぷりと眠りの時間が取れそうなのも、赤城に少しばかりの会話を楽しむ余裕がありそうなのも珍しかったから、ちょうどいいと思ったのだ。
眠るといっても夕餉や湯浴みはその前に済ませねばならぬだろうし、湯上りの赤城を前にして理性が保てる……とはまあ思うが、無駄な我慢をしたくもなかったから本日の逢瀬はまもなく終了だろう。あとは赤城がうつらうつらし出したらこの場を去り、食事の支度が終わった報を受けたところでまた迎えに来ればいい。だから今日みたいなタイミングが丁度良い。――Richtig?


――さて。
貴女は何時になったらわたしを名前で呼んでくれるのかな

……ツェッペリンさんって、男の人の名前じゃない


赤城の布団で、……うわ掛けが恐らく加賀の領域まで跳ね除けられてるのはバレたら物凄く渋い顔をされそうだな、ふっと思って笑ってしまったわたしにむうっとふくれっ面をした赤城はわたしの鼻をそのまま引っ張ってくる。痛いことには痛いがまあ可愛らしい、いつもの範疇だ。


なんだそんなことか。相変わらずお前は……いや、貴女は、

……言い直さなくていいわよ、

へんなところを気にするのだな

最後まで言わなくていいわよ!!


ぼすぼすと叩いてくるのが眼前の布団なのは、安心しておけばいいのか? 腹や腕を差し出すのは勘弁してもらいたいので、まあ有り難くはあるのだが。あまり変な体位にはならなかったから酷使する必要がなかった腹筋はともかく、腕はさっきまで活躍していた手前、持ち上げたりするのは実はなかなかに辛い。


それをいうならGrafは爵位だが、

抽象名詞ならいいじゃない! わたしだって、

アカギはコユウだろう?

……もう、なんでそんなに日本語に堪能なのよ、

貴女の言語だからな

そこは日本に来たからだと言って欲しいわ、

同じことだろう

……Grafの馬鹿!!


引っ張られるのが頬になったのは、加減を間違えなくても大惨事にならないからだろう。
……わたしとてこれから夕餉にも湯浴みにも行くのだがな。一夜という冷却期間がない場合なかなかの様になると思うのだが、そして勿論わたしは原因を隠すつもりは無いわけだが、大丈夫なのか?


……だって、

ん?


お返しに、無論跡はつかない程度に、赤城の柔い頬をむにむにとしてやっていたら囁くような呟き。
わたしに向けるならばもっと明瞭なのが常の赤城が、こうなるのはよっぽどのとき、具体的にはわたしの告白への返答や初夜の翌朝に得た御礼、ああそれから、悪夢を見たから同衾して欲しいというのもあったか。


貴女は飛行船じゃなくって航空母艦だわ、
――Richtig?(そうでしょう?)

……Danke


思わず母語で返してしまったのは、不器用なドイツ語が愛しすぎたからだ。
嗚呼、もうすぐ夕餉なのが恨めしいな。貴女はこんなにも可愛いのに、あんなにも可愛らしかった感触がまだ生々しいうちに、この感動が醒めないうちに第三者の前に出ていかなければならないなど、たいした拷問だ。
――赤城。貴女に空母だと言ってもらえるのが、わたしは、一番嬉しいんだ。
もしかしたら、さっきまでのセックスや付随する甘いキス、わたしなどが生み出せる嬉しそうな声や瞳、そんなものより、ずっと。
















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