わたしのかって(瑞鶴×加賀、これの延長軸=現パロ)







今降りたばかりの、1時間に1本も無いバスを見送って、うぅんと伸びをした。
そんなにいつも同じ運転手さんに当たってた記憶もなかったけど、あんなにフランクに声をかけられたってことは噂にでもなってるんだろうか。(まさか路線バスに向かって、手を降ることになるとは思わなかった。)
キャリーバッグを引くにはずいぶんとでこぼこした道だから、代わりに背負ったリュックサックは来るたびにその容量を減らしていく。
いまから向かう、加賀さんの家に、わたしがどんどん私物を置いていくからっていうのもそうだけど。
来るたびに、加賀さんが、わたしにプレゼントと称してあれこれ買っておいてくれるっていうのも、同じくらいの割合で原因となってしまっている。
最低限の貴重品と、加賀さんへのお土産が入ったそれを揺らすように駆ければ、ぐんと初夏の土いきれが薫った。
加賀さんの住むところはいつも空気がいい。
好きだなあ、って、思う。


……ただいま、

……いらっしゃい。


何回戦ってみても、おかえりなさいと言ってくれない加賀さんにぷぅっと頬を膨らませれば彼女の目尻がふにゃんと下がった。
あ、好き。思わず蕩けた目線に今度は口角までとろけた加賀さんが、我にかえる前にとえいっと飛びつく。
生垣と呼ぶには随分野性味が強い茂みが隠せるということくらいはちゃんと計算した上で、顎と後頭部を同時に捕らえてまっすぐにキスをする。
どれだけ文字で連絡を取り合っても、ばかみたいに長い電話でつながり続けても。
この一瞬で全部吹き飛んじゃうくらい、本物の加賀さんがいまわたしの腕の中にいるという事実は、強い。
あー、だいすき!!
叫ぶ代わりにぎゅうぎゅうに抱きしめる。
苦しいって言われても家の中でがいいって言われても、そんなの、聞いてあげられない。
(家の中で、もっと苦しくない方法でして欲しいっていうお願いを叶えてあげるか否かっていうのは、これとは、全っ然、別の話だ。)







床に落ちたスプーンを拾ったら、加賀さんが、はにかんだように笑ったのが悪いのだ。
かぁっと顔面の熱が上がって、カチッと音まで聞こえたようにスイッチが入ってしまったわたしを、ぎょっとした顔で見下ろした加賀さんは、金縛りにあったかのように動かなかった。
わたしが、プリンを買ったときについてきたプラスチックのスプーン(床に落ちた奴)を、そのまま、机の上に放るように置いたときまで、それから向かいの加賀さんににじり寄ってそっと壁際にまで追いやったときにまで、きっちり、しっかり、固まっていた。


……加賀さん、

…い、……や、


前に押し出された手と逃げる腰は完全にわたしを拒絶していて、それなのに同じくらいに潤んだ瞳が、期待、していて。
どうして。そんなかわいい顔で、わたしのこと、
……ああ、これは、本州の西端に近いところにいたときの頃のことだっけ。


……ずいかく、


あまり多くのものを持たない加賀さんは、けれどふらふらとばかりしているわけではない。
ひとつひとつを大切にして、ときにはしすぎて、まわりと軋んだり、してしまうとびきり不器用なひとというだけだ。
貸し倉庫でも借りてるんですか。その昔軽口を叩いてみたら軽く笑いながら否定されて、それから、そっと、それなのにとても重い笑い方でふっと笑った加賀さんは、本当に大事なものはわたしに預けたり一緒に背負わせたりは、絶対にしてくれない。
加賀さんのものでも加賀さんの縁者でもない一軒家を、加賀さんはいまでも律儀に管理している。


横浜にいたときだってさ。
結局住まなかったんでしょう。

そんなの、できるわけないじゃない。

あーあ、赤城さんったら、ずるいなぁ

わたしがしたいんだもの。
いいのよ、

わたしが文句いうのもわたしの勝手ですぅ

わたしのいないところでやって頂戴。

……はぁい、


持たせてはくれないものは、けれど片鱗さえ見せてくれないわけでは無いから。
素肌で触れ合ってるままの加賀さんに、キスのひとつ、落とせば充分、妥協の枠の中に、加賀さんの意地っぱりなとこをいれてあげられないわけでも、無いから。
今度一緒にいかせてくださいよ。そのおねだりにリトライするのはたぶんまだ、だいぶ先。
来年の春には、わたしは、学生を卒業する。
卒業式のあとで、加賀さん、迎えに来てくれないかなぁ、……なんて言ったらたぶん翔鶴姉が泣いちゃうからしないけど。わたしの学校からここまで来るのも当日じゃ厳しいだろうし、電話で我慢かな。うん。


……加賀さん、わたし、がんばるから。

……いきなりどうしたの、

ん、あとで教えてあげる。


たぶんそれまでにはもうあと数回しか来れないだろうから。
とりあえず今はもういっかいちゅー。








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