ホップ・ステップはまだ助走(加賀×Saratoga)






……いくら何でも早すぎないかしら。
こういうのは、一歩一歩を着実に歩んだあとにようやく訪れるものではないのか。
軍属かつ同性が相手であるという境遇である以上、結婚してからというつもりは無いし、退役まで待つ覚悟も実のところありはしなかったけれど。それにしたって。
これがアメリカ流? 呆れた瞳で隠した非難をするために横を見たら、ずいぶん緊張しているらしいサラトガの横顔があったから、私は拍子抜けしてしまった。


……サラトガ、

はい。

…だいじょうぶ?

……はい、だいじょうぶ、です。


これではまるで私が彼女を誘って、私が彼女に無理を強いているみたいじゃない。
いくら思い返してみてもその立場は逆であるはずなのに、この部屋を魔法のような手際で抑えてきたのも今日明日の予定をふたりとも非番にしてきたのも、サラトガの側であったはずなのに。
ここまでお膳立てしてくれたんだからあとは頑張らないとだよねえ。意地の悪い笑顔で送り出してくれた面々は帰ったら覚悟しておいてほしい。本当に困る。こうでもしないと踏み込む勇気が無い私の情報をこの子に逐一流してくれていたのも感謝しているけれど同じくらいに腹立たしい。

ベッドにサラトガが腰をかける。ぎぃ、と音が鳴った。
……こんな安っぽい作りのベッドでするの? 眉間に皺がよった私に、毒のない苦笑をされると始まる前から興が削がれたとも言えなくなる。
嫌がらせのように酷評してみたものの、いつも寝ている寝具よりはずっと上等だ。このホテルだって、近隣の街まで含めて一番いいところだし、それ専用ないかにもなところに行くのは私が断固拒否しただろう。それを知ったのは私の態度からなのか、忌々しくも頼れる皆の情報からか。せっかくのふたりきりなのだ。感謝も苦言もあとでたっぷり言ってあげるから、もう、当分出てこないでくれるかしら。


うんと、やさしくしてくださいね

……そうね、


言われなくてもそうするつもりだった。
それなのに彼女にそう言われると、まるで彼女がそう望んだからそうするのだと言うような、奇妙な服従感がじわりと滲む、気がしてくる。


それは、正しい返答?

どうでもいいじゃない、そんなこと


やや苛立っていると自覚した声音で返せば、少しだけ目を見開いたサラトガが私に触れようとするから身を後ろに傾けて避ける。
彼女が傷つくと知ってそうする私は卑怯だ。
それなのに嬉しそうに笑ってみせるサラトガは、随分とおかしい。


……うん、


腕を広げられて、目を閉じて。小首を傾げられさえして初めて、この子にキスが出来る私に、ひどく嬉しそうに笑ってくれる彼女を、そっと押し倒す。
半ば冗談半ば本気で心配していたのとは裏腹に彼女はほとんど喘ぎ声すらあげない静けさで、震えてどんどん熱くなる身体と揺れながら燃える青い瞳ばかりが私に興奮を伝えてきた。
その熱がたしかに愛情なのだと決めつけてしまうにはまだ確信がもてない私は翌日帰った先でぶん殴られたしサラトガにも泣かれたけれど、日を変えて場所を変えて繰り返すうちに少しずつ、信じることも返すこともできるようになった、と、思うので、一歩一歩の途中にあって、良かったのかもしれない。

















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