夢に出るのは(瑞鶴×加賀)






かがさん、と呼ぶ幻聴が聞こえた気がした。
幻聴だと端からわかっていたのだから私は正常だし、教導役として他所へ派遣というよっぽど安全な任務に出ている瑞鶴の不在をひどく寂しがるほどの可愛げはもうとうに無くしてしまった。……と、思う。少しばかり期限が長い代わりに定期的に彼女の情報は入ってくる。もちろん順調のようで、後輩に懐かれるのは可愛いですね、と、生意気にも伝言まで寄越してくれたのだから不在を寂しいと思うよりは手ぐすね引いて彼女を取っちめるのを待っているから早く帰って来い、という方がよほど正しい。

……はあ。

それなのに漏れ出るため息には存分に不健全な熱が溶けていて、これはもう発散するしかないかと覚悟を決めたのが、今しがたのことだ。
だいたい、中途半端にあの子のことがわかるのが良くないのよ。伝言すら出来るお気楽な出張のくせに、早く会いたいとか愛してるとかの一言さえくれないのも悪い。どうせ怒るなら、そういうデリカシーの無い告白に照れ隠しの鉄拳を入れる方が良かった。わがままですねと彼女には盛大に噴き出されたあとに笑われるんだろうけれど。
ごろりと何度目かの寝返りを打ってみる。これまでの幾度かと同様にやっぱり眠気は訪れなくて、すり合わせた太腿の奥がふつふつと煮えた。情けない。
覚悟を決めてそこに手をやる。布団の外に出ていた指先は予想以上に冷たくて、漏れ出た声はそれに対する驚きだと信じたいところ。
脳裏に浮かばせるのはもちろん瑞鶴の姿。彼女に抱かれてる自分の痴態ではなく、私が攻める側に回るときに彼女が見せる、可愛らしい姿。
白い襦袢はを剥けばすぐに現れる白い身体の色づきはわたしがつけたものだと自惚れている。こうしてみれば思いのほか姉に似ているのかもしれなくて、でもそれを告げるのは無論無粋であるから飲み込んだ夜は、翌朝霜が降りていたくらいの冷え込みであったから殊更にふたりしてあちこちでくっつきあったことを覚えている。
ああ、この寒さに覚えがあるから、思い出してしまったのかもしれない。性急に指を動かせば、だんだんぬるんできた体温がそれと逆比例するように大胆に肌の上をまさぐりだして、まぶたの裏で乱れている瑞鶴と同じように私の息は乱されていく。
瑞鶴になりたいわけでも無いのに、おかしいわね。頭の中の彼女が欲しがる顔をしたと同時に反対側の手で乳首をつねり上げれば、くぐもった声が生まれる。歯の奥で噛み潰して、垂れた滴の先に指を挿し込む。

……ずいかく、

呼んでしまえばあとは随分と楽だった。はやく帰ってきなさいと、いい加減に生身の貴女に会いたいわと、囁いてしまえばあとは甘えて落ちるだけだった。
瑞鶴の幻と同じところを同じように苛められて、同時に果てたのだから、私と同じことを瑞鶴も同じようにいま思っていてくれるに違いないとまで夢見がちになることはできなかったけれど。そう夢想するのも悪くないと思えたから、おかえりなさいのあとで少しばかり甘えながら、こっそりカマをかけてみようと思っている。

















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