誰のための矜持か(Bismarck×Warspite)




さっさと殺してくれればいいのに、と思う瞬間を、重ね合わせて夜が組み上がる。
いつ殺してやろうかと思い倦ねる程に憎悪を滾らせていたのはほんの最初だけで、現実では救えないほどあっという間に彼女に骨抜きにされてしまった。
惰性でのセックス。唾棄すべき愚かに堕していく様を正しく断罪してくれればいいのに、犯罪者となるなど真っ平御免だと思うのに一方で私を罰するならば貴女以外には許さないと考えている私を嘲笑うかのように、彼女はしとやかに苦しげに息を漏らす。
私の名前を形作る唇が陶酔の形をしたことは一度足りとも有りはしない。


……和解してきたわ

良かったじゃない

……本当にそう思う?

さあね?

……ひどいひと。


続けて「Thank you」、と、笑った姿は花のようで思わず見惚れてしまったのは、致し方無いことだと思うの。
戦場に咲く花、とでも呼べば良いのか、かつて対峙し、沈めたイタリア娘たちときちんと話をするなんて物好き、私にはとても考えられない。
過去は過去だ。今更誰にもどうこう言われる謂れなど無いし、割り切れないならそれは割り切れない本人が狭量とは言わずまでも力不足ということに過ぎないじゃないの。
厭なら近づかなければ良い。同じ部隊で戦うのは無理だと上申すればいい。それすらできないのなら、艦娘として生まれ直したことが不幸だと認めて、解体されてしまえばいい。
同郷者だけで開いた酒宴で一席ぶったら、ビスマルク姉さまは真面目で優しいですねえとオイゲンに相好を崩された。どこをみたらそうなるのか、皆目、検討もつかない。
そのまま向きを変え、オイゲンと反対側にいたマックスにひとりごちたら、君も随分日本に染まったねえとにこにこと返されたのはなおのこと、納得行かない。


……ばかね、

…ぅくっ、……っ!!


滑らかな金髪を下敷きにしながら、楽しかった思い出を、飽きもせずに思い返している。
冷たい金属の塊であった頃のことは殆ど無く、最近では母語ではなく日本語で感嘆や賛美の言葉さえもが漏れるようになってしまった。眼下で髪も肌も吐息も溶けて染まっていくウォースパイトは、綺麗で、気高く、美しい。
私の隣に立つに相応しい。そう告げてあげたらどんなにか悔しげな表情をされるだろうか。
罵倒にもならない囁きで眼光強く睨みつけられるのに対し、背筋を伝う感覚は歓喜の欠片だ。歓びに満ちあふれている。そう言ってあげても良いのよ。
彼女が正しくも正しくなくとも、受け取ってくれるならと思う私は、正常な思考はとうに無くしてしまったのかもしれないとさえ思う。こんな私を、オイゲンやマックス、レーベもユーも、笑っていいのよ?


……貴女なんか、大嫌いよ

……そう、私もよ。


さっさと殺してくれないものだろうか。
戦勝国の傲慢さで、生存艦の経験をもって、無様に散った馬鹿をもう一度、同じ様に裁いてくれない、ものだろうか。
幸いで最愛を語るには彼女を知らなさ過ぎる私が、彼女の苦し紛れのような告白にいちいち傷ついていることを知られるくらいなら舌を噛み切って死んだ方が余程マシ、今生での艤装の癖や性能を比較されるのと同じくらいに腹を立てる癖に、私は今日も夢を見て、他ならぬ私に馬鹿にされる。
せめて貴女なら、なんて戯言ね。忘れていいわよ。











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