紫陽花色の毒を干す(葛城×瑞鶴)







忘れたかったものがあった。
長い髪が特に梳らなくとも艶やかに輝いているところだとか、空母の物ではない機構の名残が落とした影を、海の上で恥じているところだとか。
私に向けてやわらかく笑ってくれるところ、私の肌に触れるとき、とびきり愛しそうな顔をするところ。
好きだった。消してしまいたかった。消してしまったのは、私の罪だと言いたかった。


……きょうは、あおいんですね

そーね、


知ってるでしょ、と告げる瞳は我ながら可愛げもない。皮肉、当て擦り、八つ当たり、そういった醜いもので出来ている。
疑心しているだろう形見では無いのだけれど、それを告げてあげる日はきっと来ないのだろう。

葛城はやさしい。葛城はかわいい。
とてもたいせつにしているつもりでいる後輩は、時折おんなのかおをして私を見遣る。
いとけないしょうじょのようであったなら、あるいはいっそ、男の皮でも被っていてくれたなら。
あのひとたちと、まるでちがう、生き物であってくれたなら。

私は手放せる。私は手放せたのに。これじゃあ、私は手放せてしまうじゃないの。


…あ、雨、

……そーね、


畳にごろり寝転がり、葛城の髪の下に腕を差し入れているうちに、もう、夏が間近に来ていた。
目前の葛城の唇が何かしら動く。同時に小さく聞こえた耳鳴りを、私は羽虫の類だと思うことにした。









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