茱萸色の甘味料(Graf×赤城)







……使うつもりはなかった、

うそつき、

……そうだな、すまない。
言い換えてもいいか?

……なに?

無断で使うつもりは、なかったんだ。


ああ、いやだ。 そういって几帳面に身体を折って謝罪する恋人の誠実さを、知っているくせに許さなかったらただ私が駄々を捏ねているだけになってしまうではないか。





貰ってきたのは何時だったか、既に忘れた。
明石の作業部屋、その裏手に積み上げられた廃材を運ぶのを手伝った礼にと貰った飴は、既製品というには妙に大きく、そのくせ奴が作ったというには奇妙なくらい小綺麗にラッピングがされていた。
ああ、これを母語で表したら赤城に噴き出されたことがあったな。そんなことを思いながら貰ってポケットに入れたまま、そのまま彼女の鼻をつまんでやったらころころと笑われ、やや長い口づけになだれ込んだことまでを思い出しながら自室まで持ち帰った、そこらに放り出してそれきり忘れていた、ことを、今、思い出した。


……グラーフさん?


確かに呼ばれていた。私は丁度上着を脱いでいたところだったから生返事をしていた。
赤城、お前の服もかけておいた方がと話しかけようとしたら彼女の頬が不自然に膨らんでいた。お前つまみ食いはするなとだからあれほど。胃袋がいくら頑丈だからといって限度があるし体面もある。そんなお前に駄目だというには理由がある。


赤城、それ、

……ぐらぁふ、さん、

…………は?


無論真っ先に思い浮かんだ明石の顔より前に、私は私の迂闊さを呪った。





…ぐら、っ、……んんっ、……や、

……あかぎ、


相手が吐いた息をそのまま吸い込めるような距離で贖罪のように名を告げて、触れるだけの口づけをひとつ。ふたつ。赤城がぐらりと傾いたからみっつめは彼女の腰に手をやって。頬と鼻の上と瞼にも。続けながらもう片方の手で髪を梳いて、生理的にだろう、伝いかけた涙は目元にほど近いところでべろりと掬い取る。


……だめ、


倒れさせるのは本意ではないからそのまま抱きしめる。赤城の顔はわかりやすく紅潮していて、それから不思議な香りがした。薔薇に近く、けれど極めて人工的で、柔軟剤というには弱いけれど彼女の健康的な石鹸や磯の香りに混ざるにはとても違和感のあるそれが鼻につく。覚悟を決めて彼女の唇に割り行ったが、ただ熱い粘膜がうねって私を迎えるだけで、甘味も匂いも判別できなかった。ひどく蕩けて、もう理性を手放すことを選択した――選択の結果であるという手順を踏まなければそうなれない彼女の不器用さは大層可愛らしい――ときの熱に、既に近かった。


なに、が?

たって、…られな……


赤城が言い終えるのを待たずして、引きずるように寝所まで連れて行った。理性を半分以上飛ばしている中で、居間に近しい扱いをしている部屋でそのままなだれ込んで、翌朝後悔するのは赤城の方だろうから。
尤も、どのみちここからどう転んでも彼女は明日羞恥で死にそうな顔をするのだろう。乗じて怒られるだろう私に投げつけられる原因に、照れ隠しの割合が多く含まれていたらいい。何とも自分に都合の良いことを考えて、赤城の合わせに手を差し入れ、一息に取り払った。普段ならむずがるような――ああ、これも最高の照れ隠しだな――抵抗があるのにそれすら無い。口角が上がるのがわかる。赤城の調子がおかしくなった当初に確かにしていた心配は、原因に見当がついた時点でどこかへ行ってしまった。あの飴の製作者が、艦娘に有害なものを作る筈がない。


……ひゃ、…ぁ、……っ!!


私のベッドにやや乱暴に押し倒した、その振動だけで微かな嬌声を漏らし、撓むスプリングに身を捩らせ。私の腕に囲われている中で小さく首を振る赤城は可愛かった。――とても。









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